皆は、私を、先生、と呼んだ。私はまじめにそれを受けた。 私には、誇るべき何もない。学問もない。才能もない。肉体よごれて、心もまづしい。 けれども、苦悩だけは、その青年たちに、先生、と言はれて、だまつてそれを受けていいくらゐの、苦悩は、経て来た。 たつたそれだけ。藁一すぢの自負である。 けれども、私は、この自負だけは、はつきり持つてゐたいと思つてゐる。 わがままな駄々つ子のやうに言はれて来た私の、裏の苦悩を、一たい幾人知つてゐたらう。