2009/05/07 (木) 21:14:31        [qwerty]
東京近郊の某新興河口都市のマンションに住む智也は小学 5 年の 11 歳。大
手スポーツ用品メーカのサラリーマンである父親と母親との 3 人暮らし。一
方、近所の従来からの住宅地に両親と中学生の姉と暮らす清貴、通称「キヨ
タン」は小学 2 年の 7 歳。智也の母親は智也を進学塾に行かせるなど、自
分では智也のためにいろいろやってあげているつもりなのに、ここ半年ほど
前から智也が「行ってきます」も「ただいま」も言わないなど、子育てノイ
ローゼ気味で子育て相談サイトに入り浸るなど、ネット三昧の毎日。智也の
父親は会社から重要なプロジェクトのリーダを任されて、ますます家庭を顧
みない。キヨタンは両親からの溺愛ともいうべき寵愛を受けて育っているが、
キヨタンの姉は自分だけが両親から放置されているように感じ、何かとキヨ
タンに意地悪をする。ある日、塾に来ていないという連絡を受けた智也母は
帰宅した智也に何をしていたのかと問いただすと、振り返ることもなく「ひ
と...ころしてた...」との答え。当然ながら、真に受けることはなく、子ど
もが素直になってくれないことの悩みを増す。ちょうどそのころ、キヨタン
の家では、キヨタンが玄関の外にランドセルを残したまま行方不明になり大
騒ぎとなっている。警察に届けを出すが、翌日キヨタンは河原で頭部を滅多
打ちにされた変わり果てた姿で発見される。キヨタンママはキヨタンの帰宅
時に自分が在宅していなかったことを責め、悲嘆に暮れる毎日。ネットでは
キヨタンママに対する非難中傷があふれる。キヨタン姉もキヨタン生前に
「キヨタンなんか消えちゃえばいいのに」と言ってしまったことをひどく後
悔する。数日後、マンションのエレベータ内の監視画像などから、警察が智
也をキヨタン殺害の容疑者として保護する。智也母は到底それを信じられな
い一方、父親は自分の会社での立場がどうなるのだろうという心配ばかり。
世間の中傷は今度は智也の両親や祖母に向けられる。家裁に送致された智也
に両親は面会しにいくが、母親からの問いかけに対して智也が発した言葉は
「お母さんこそ耳付いてんの?」。父親のほうは見ようともせず言葉をさえ
ぎるように「刑事さん、ボクが殺しました」。泣き崩れる母とただ茫然自失
の父親。鑑別所送致後も最初はだれにもほとんど心を開かなかった智也だが、
同じ年ごろの子供を持つ家裁の女性監察官だけには徐々に心を開いていく。
事件当日、鍵がなくて家に入れずウンコを漏らしそうなキヨタンを学校から
の帰途に見つけた智也が自分のマンションに連れていってあげてトイレを貸
してあげたこと、そのあと二人で河原でキャッチボールをしたこと、そして
ついにはキヨタン殺害の事実まで話すようになる。それでも面会に来た母親
を相変わらずかたくなに拒み続ける。また、智也は「むかついたから。あの
子がむかついたから」とだけ言い、殺害の詳しい理由を話したがらない。智
也母はキヨタンの両親におわびの手紙を渡すが、突き返される。一方のキヨ
タンママはキヨタン姉の孤独な心も慮ることなく、キヨタンのことばかりを
思い出す毎日。ある日、家裁の男性監察官が何気なく智哉の体に触れようと
すると、智也は監察官を突き飛ばし、これまで見せたことのない表情で「さ
わるな!」と激こうする。そのあまりの異常な様子を見た女性監察官は、智
也の過去に何があったのかを想像し、一つの結論に達する。長い時間をかけ、
智也が女性監察官に、半年前のあの日何があったのかを告白する。智也は変
質者の男からレイプされていた。あの日、学校帰りの道端で智也はスーツ姿
の男から声をかけられ道案内を頼まれる。男と一緒に歩きはじめた智也だが、
公園の横を通りかかったとき、不意に男に抱きかかえられ、トイレ横の茂み
に連れ込まれる。智也は地面に押さえつけられ衣服を脱がされ、幼い下半身
を男のものであからさまに凌辱される。当時小学 4 年の智也には何が自分
の身に起きたのかわからない。「どうして大人の人がこんなことするの」、
「どうしてボクを痛い目にあわせるの」。男が去り、ようやく立ち上がった
智也は脱がされた服を着て、自宅に向かう。服は泥だらけで、泣きじゃくり
ながら歩く智也。道行く人はけげんな表情をしつつも、だれも智也に声をか
けてくれない。自宅に行きついた智也はドアを開けて力なく「ただいま...」
と声を絞り出す。お母さんが助けてくれるはず...。だが、自宅にいるはず
の母親は奥の部屋でネットに夢中になっており、身も心もボロボロになった
小さな智也の帰宅に気づかない。智也は自分がものすごくけがれたように思
い、制服を着てランドセルを背負ったまま夢中でシャワーを浴びる。風呂か
ら出てきて茫然としている智也にようやく母親が気づく。そこで智也にかけ
た言葉は...「ちょっと何やってんのよ!教科書が濡れちゃったじゃない!」
このときから智也は「行ってきます」も「ただいま」も言わなくなった。父
親からまともにキャッチボールをしてもらったこともない智也に対し、毎日
のように父親と遊んでもらっているキヨタン。キャッチボールの腕は子ども
の目から見ても明らかだった。「おにいちゃんなのに、ヘタクソなの!」、
「パパにキャッチボールしてもらったことないの?」悪気ないキヨタンの言
葉が智也の心をえぐる。最初は反発しつつも我慢していた智也だったが「キ
ヨタンのママはね、キヨタンのことがだーい好きなんだよ!だってキヨタン
はいい子だもん」、「おにいちゃんって変だね」、「おにいちゃんのママが
おにいちゃんのこと好きじゃないのは、おにいちゃんが悪い子だからなんだ
よ!」。夕闇の中屈託なく笑うキヨタンの背後に「ママはあなたが大好き」
の大看板が浮かび上がる。だれからも愛されるキヨタン...。それに対して
自分はあの日汚された...。汚れたからお母さんから優しくしてもらえなか
った...。ボクが悪い子だからお母さんはボクのこと愛してくれないんだ...。
智也はゆっくりと石を拾い上げ、キヨタンの頭部に振り下ろす。