しかし しあわせをいちばんふかく強烈に感じたのは矢吹丈ではなかったろうか― ジョーは生まれてこのかたこんなに 人にしたわれたことはなかった こんなに愛されたことはなかった こんなにまぶしいほどのよろこびを感じたことはかつて 一度もなかった ジョーはこのうれしさや よろこびや しあわせ感謝を いま ここでどう表現していいかわからなかった ぼんやりとゆめでも見ているようにみんながおどりくるいわらいうたうのをただ見つめるだけであった 子どもたちが帰り 住人たちもそぞろ ひきあげていったあと 屋根うらに作られた寝床にもぐりこんだジョーは こっそり泣いた 酔いつぶれた段平や西に気づかれぬよう ボロふとんのはしをかみしめてひとり 泣いた ジョーが人間の愛になみだを流したのは今夜がはじめてのことであった