「あばばばばばば、ばあ!」 女は店の前を歩き歩き、面白さうに赤子をあやしてゐる。それが赤子を揺り 上げる拍子に偶然保吉と目を合はした。保吉は咄嗟に女の目の逡巡する容子を 想像した。それから夜目にも女の顔の赤くなる容子を想像した。しかし女は澄 ましてゐる。目も静かに頬笑んでゐれば、顔も嬌羞などは浮べてゐない。のみ ならず意外な一瞬間の後、揺り上げた赤子へ目を落すと、人前も羞ぢずに繰り 返した。 「あばばばばばば、ばあ!」