> 2010/07/10 (土) 05:25:25 ◆ ▼ ◇ [qwerty]> ある日、街の野良ゆっくりたちの間で原因不明の病気が蔓延したとの知らせが届いた。
> 野良ゆっくりの死体がたくさん転がっていたのを覚えている。
> それはゆっくりたちの間で起こる感染病の一種だったそうだ。
> “だったそうだ”というのは未だに原因が不明だからである。
> ある時、飼育小屋でゆっくりを飼っていた学校の生徒数名が原因不明の高熱に悩まされた。
> すぐに飼っていたゆっくりが感染病にかかっていなかったかの検査が行われた。
> 結果は黒だった。
> それが人間に感染したのかどうかまでははっきりとはわからない。
> わからないが、人間たちはわからないからこそ、原因の元を絶とうとした。
> ある場所に集められたゆっくりたちは一瞬で殺されてしまった。
> 病気のゆっくりも、そうでないゆっくりも。
> いいゆっくりも、悪いゆっくりも。
> 賢いゆっくりも、馬鹿なゆっくりも。
> やがて。
> 野良ゆっくりも、飼いゆっくりも。
> 人間に感染する可能性がゼロでない限り、人間と共に過ごす時間の長い飼いゆっくりは最も危険な存在だった。
> 役場の人間が僕の家にやってきた。
> 彼らは僕に一本の注射器を渡した。
> それにはゆっくりを安楽死させるための薬が入っていた。
> すぐにでも床に叩きつけて壊してやろうかと思ったができなかった。
> 原因不明の感染病は既に大きなうねりとなって広がりつつあったからだ。
> いつれいむが感染病にかかるとも限らない。
> 僕は年老いた母と一緒に暮らしている。
> 僕はともかく、母が感染病にかかってしまったらどうなるかわからない。
> 近所のゆっくりを飼っていた家からも、ゆっくりの声が少しずつ聞こえなくなっていった。
ある夜、僕はれいむを手招きして呼び寄せた。
ぴょんぴょん飛び跳ねてやってくるれいむ。
僕がれいむに注射器を見せると。
「ちくちくさんはゆっくりできないよっ!」
そう、叫んだ。
僕はれいむに最初で最後の嘘をついた。
感染病の事はれいむも知っている。
この“チクチクさん”を我慢しないとれいむも感染病にかかってゆっくりできなくなってしまうよ、と。
れいむは俯いた。
考え込んでいた。
それからキリッとした表情で叫んだ。
「ゆっくりわかったよ! それじゃあ、れいむがちくちくさんをがまんできたら……」
我慢できたら缶コーヒーを飲ませてほしいと。
僕はれいむと偽りの約束を交わした。
れいむの頬に注射器を刺す。
「ゆ゛ッ」
短く声を上げた。
しばらく唇を噛み締めて小刻みに震えていた。
注射器を引き抜く。
「れいむ、ゆっくりがまんできたよ!」
僕はれいむの頭をリボン越しに何度も何度も何度も撫でてやった。
それかられいむは僕に眠気を訴えてきた。
「ゆぅ……れいむ、すーやすーや……したくなってきたよ」
僕は震える唇を噛み締めて「ゆっくりお休み」とだけ告げた。
れいむは僕の顔を見上げて、涙を流して微笑んだ。
「ゆゆっ! おにーさん! ゆっくり……さよなら」
僕はれいむから目が離せなくなった。
それから二度とれいむは動かなくなってしまった。
れいむは気づいていたのかも知れない。
“チクチクさん”の意味を。
参考:2010/07/10(土)05時24分37秒