> 2010/07/10 (土) 05:26:12 ◆ ▼ ◇ [qwerty]> ある夜、僕はれいむを手招きして呼び寄せた。
> ぴょんぴょん飛び跳ねてやってくるれいむ。
> 僕がれいむに注射器を見せると。
> 「ちくちくさんはゆっくりできないよっ!」
> そう、叫んだ。
> 僕はれいむに最初で最後の嘘をついた。
> 感染病の事はれいむも知っている。
> この“チクチクさん”を我慢しないとれいむも感染病にかかってゆっくりできなくなってしまうよ、と。
> れいむは俯いた。
> 考え込んでいた。
> それからキリッとした表情で叫んだ。
> 「ゆっくりわかったよ! それじゃあ、れいむがちくちくさんをがまんできたら……」
> 我慢できたら缶コーヒーを飲ませてほしいと。
> 僕はれいむと偽りの約束を交わした。
> れいむの頬に注射器を刺す。
> 「ゆ゛ッ」
> 短く声を上げた。
> しばらく唇を噛み締めて小刻みに震えていた。
> 注射器を引き抜く。
> 「れいむ、ゆっくりがまんできたよ!」
> 僕はれいむの頭をリボン越しに何度も何度も何度も撫でてやった。
> それかられいむは僕に眠気を訴えてきた。
> 「ゆぅ……れいむ、すーやすーや……したくなってきたよ」
> 僕は震える唇を噛み締めて「ゆっくりお休み」とだけ告げた。
> れいむは僕の顔を見上げて、涙を流して微笑んだ。
> 「ゆゆっ! おにーさん! ゆっくり……さよなら」
> 僕はれいむから目が離せなくなった。
> それから二度とれいむは動かなくなってしまった。
> れいむは気づいていたのかも知れない。
> “チクチクさん”の意味を。
今、僕の手元にはれいむが大好きだった缶コーヒーが置いてある。
あれからもう何年も経つのに僕は時々こうやって、無意識に缶コーヒーを買ってしまう。
自分で飲むわけでもなく。
まして誰かに飲ませてあげるでもなく。
僕はずっと缶コーヒーを握りしめていた。
汗をかいてしまった缶コーヒーの水滴が僕の指を伝う。
冷たかった缶コーヒーは僕の手の体温で少しずつ温められていく。
やがて、僕と同じ体温にまで達する。
同じ体温。
れいむの頬の温かさ。
僕は缶コーヒー越しにれいむの体温を感じていたのかも知れない。
もう、二度と会うことはできない。
れいむの体温を。
参考:2010/07/10(土)05時25分25秒