明里:見える、あの木? 隆貴:手紙の木? 明里:ん、桜の木。ねぇ、まるで雪みたいじゃない? 隆貴:そうだね。 隆貴:その瞬間、永遠とか、心とか、魂とかいうものがどこにあるのか分かった気がした。 13年間生きてきたことすべてを分かち合えたように僕は思い、それから次の瞬間、たまらなく悲しくなった。 明里のそのぬくもりを、その魂を、どのように扱えばいいのか、どこに持っていけばいいのか。 それが僕には分からなかったからだ。 僕たちはこの先もずっと一緒にいることはできないと、はっきりと分かった。 僕たちの前には未だ巨大すぎる人生が、茫漠とした時間が、どうしようもなく横たわっていた。 でも、僕をとらえたその不安は、やがて緩やかに溶けていき、あとには、明里の柔らかな唇だけが残っていた。 その夜、僕たちは畑の脇にあった小さな納屋で過ごした。 古い毛布に包まり、長い時間話し続けて、いつの間にか眠っていた。 朝、動き始めた電車に乗って僕は明里と別れた。