投稿者:連続小説ちまき 2010/10/08 (金) 21:25:36        [qwerty]
失態により都を追われた私は故郷に戻り折り合いの悪い父親と同居することになった。
父親は百万円以上を費やして屋根裏部屋に物置を作っていたのであるが
わたしの荷物も部屋に収まりきらないので、いくらかでも整理しておこうと梯子を登った。
上京した数年前と変わらずそこは吐き気を催す場所であった。
父は害虫対策と称して無数の粘着シートをそこかしこに設置しているのであるが
ヤスデ、ヤモリ、ネズミ、ゴキブリといった害虫が累々とそこに横たわったまま放置されているのだ。
真新しいネズミの死骸もあるが、これも数日後には腐臭を放つようになるのだろう。
物置といっても父は滅多にここに登らない。
増えすぎた家財―わたしはゴミと呼んでいるが、それらを一時棚上げするために作られた場所なのだ。
無数の自己啓発書、英会話入門書、勤め先に関係する書類、AV機器のケーブル、かばん、地球儀、文房具に工具等々。
5年以上も役に立たない物はもはや財産ではなくゴミと呼ぶべきだと私は考えているのだが、父は一向にこれを手放さない。
父は浪費の癖がある。1000冊100万円を費やして専門書を出版したのであるが、
肩書は白紙、名前もペンネームで出したものだから、業界関係者に一顧だにされず、我が家の和室ひと部屋を占領している。
仕事上は無能ではないのだが、自己顕示欲と対人能力の低さから職場では鼻つまみ者であるというのが
人づてに聞いた評判である。
この物置とて魔窟でしかないのだが工務店に100万円は支払っている。
屋根瓦の修理のついでというのが建前ではあるが、モノへの病的な執着心によるものというのが実際のところだろう。
とかく、我が家には物が多い。上のような性格の父であるから、既に物置にあるかどうか吟味せず容易に買い物をする。
ざっと見渡す限りでも電卓類5個、大型のはさみ7個、金づちやのこぎりといった工具セットが室内2か所、室外2か所、
封筒やA4用紙の入ったオフィスによくあるケースが3部屋それぞれ1個ずつー中身は詰まっている―、という次第である。

わたしは嘆息しながら屋根裏部屋で捨てるべきものを見定めていたのであるが、手に「ぬちゃ」という感触を感じ、
それが腐敗したヤモリであることに気付き作業を中断した。