2010/11/01 (月) 21:24:10 ◆ ▼ ◇ [qwerty]いつかの夜に連れていかれた、ビルの地下の洞窟のようなスナック。幅の狭
い回り階段を降りて不思議な感じで入り組んだ廊下を抜けた先にその店はあっ
た。店内にはやたら段差があってボックス席を仕切る煤けた白いパーテイショ
ンがまるでミコノス島の住宅群のようだった。名乗ってはなかったがフロア
レディの大半がフィリピン人だった。天井の低いボックス席で会話にならぬ
やりとりをその外国人としていると着物を着た恰幅の良い中年女性がやって
きて同行の年長者に恭しく挨拶をした。そしてこちらにも何某か言葉を掛け
ると一枚の名刺を差し出した。金が掛かっていそうな厚くて固い名刺には
「蜻蛉」と印刷されていた。その店に行ったのはそれっきりで、しばらくす
るとその店の入っていたビルのあたりは再開発で更地になって新しいビルが
建てられた。店は工事が始まる前に少し離れた場所に移転していた。新しい
ほうの店は木造の2階建てで階ごとに別の名前が付けられたスナックになっ
た。蜻蛉は2階で営業していて、そこにも一度だけ行ったことがある。恰幅
の良かったママは手術をしたとかでえらく痩せていた。そして隣に座るオン
ナのコはタイだかベトナムだかの女性で日本語がまるで話せなかった。それっ
きりその店のことは忘れていたのだけど先日閉店したと聞いた。そこで働い
ていた女性たちの何人かが知り合いの店で働きだしたのだそうだ。先週、件
の知り合いの店に行く機会があり、カウンターでオンナのコも付けずに知人
と話をしていたらカウンターの奥でグラスを洗う女性が先日まで蜻蛉で働い
ていたのだと聞いた。彼女の股間にはアンダーヘアがないらしくその代わり
に『いらっしゃいませ』とひらがなでタトゥーが入っているそうだ。わけが
わかんねえなと笑っていたら「まんこ見るか?」と言って彼女がスカートを
たくし上げたので慌てて丁重にお断りした。これまで興が乗ったおっさんた
ちが薄暗がりの店内でライターを点けて彼女のメッセージを読み、陽炎のよ
うに揺れる炎の向こうで手招きする彼女自身の中へ何人も溺れていったそう
だ。
http://d.hatena.ne.jp/llena/20101101#p1
水嶋ヒロの小説って一部抜粋が発表になったの?(;´Д`)