2005/09/15 (木) 22:42:45 ◆ ▼ ◇ [qwerty]ヘタレが異性の好意を被る物語は、説得性にかける。しかし、もしその相手が
メイドや妹であるならば、好意を買っても不思議ではあるまい。ヘタレが鑑賞
者の多くを占めるギャルゲーとその周縁の物語において、妹・メイド人格が多
用されている現状は、“ヘタレらぶらぶ”状況の納得ある成立が、求められて
きたことの帰結である。
では、これらの人格以外に、ヘタレが熱狂的な愛を受けても不思議はない対象
はいないのだろうか。我々はそれを、この物語に発見した。白痴である。
睡眠中のほとんど他人の人間にまたがり強制起床を試みる少女は、白痴である。
たい焼きを食い逃げし、奇声を発しながら他人をファーストフード店に連れ込
む少女は、白痴である。ヘタレ鑑賞者が、彼女たちに愛されても、物語の実存
性は失われないだろう。なぜなら、(救いのないことに)彼女たちは普通では
ないからである。
社会的弱者になりがちなギャルゲー鑑賞者の感情移入を誘うには、感情移入の
対象を同じようなヘタレにしなければならない。感情移入は、他者に自己を見
出す行為だからである。『ONE』は身体障害者もヘタレ範疇に入りうるという
残酷な発見によって、成立したと言ってよい。初めての出会いの時、屋上で
「そっか、今日は夕焼けなんだ」と呟くみさき先輩は効く。そこには、階段か
ら転げ落ちてきたどじなメイドロボや、届かない高さにある本を悔しそうに見
つめる内気な女子高校生に匹敵する破壊力が、確かにあった。