2010/12/29 (水) 01:03:46        [qwerty]
良く言えば懐かしい。悪く言えば少々古臭い。
キャラクターにしても、構成にしても、雰囲気にしても何処か懐かしさすらある、
一時代前のオーソドックスなギャルゲー・アダルトゲーム原作アニメといった印象が残る。

■キャラクター
コメディ要因のかなで、さり気なく助言を諭す陽菜、マスコットまたは吸血鬼関連に近いポジションにいる白、
設定・本筋に対する切り口としての桐葉などなど。

掘り下げとしては尺を考えれば致し方ない部分もあるが、
各ヒロインや周辺人物は一貫してポジション・役割が与えられており、
メインヒロイン・『吸血鬼』という設定に深く関わる人物であるだけに、瑛里華だけ一つ突出してしまうのは必然的で、
尺を考慮すれば描写としては及第点レベルだったのではないでしょうか。

ヒロインも含め周辺人物は大切な仲間といったレベルに留まっており、複雑な恋愛模様を回避している。
これは瑛里華も大きく外れるものではなくて、逆を言えば恋愛ドラマとしては少々物足りない。
しかし、恋愛模様以上に本作が描いていたものは『絆』といったもので、描写としては十分かと。

■シナリオ
出会い・体育祭・海やお祭り・最後に文化祭と定番的なイベントを見せつつ、
出会いから吸血鬼という設定が徐々に明かされていき、吸血鬼という設定に主人公が少しずつ関わっていく様子や、
各キャラのポジションとしての役割の発揮、悠木姉妹の様に掘り下げるキャラは掘り下げたりと、
それぞれ順を追って展開していく様なオーソドックスな構成でしょう。

特に、影のある人物として桐葉を登場させた事に関しては、
とあるシーンで激辛な食べ物を平然と食べるなど、人とは少し変わった様を伏線的に描写し、
後にその桐葉から『眷属』という設定を引き出し、終盤の『吸血鬼』と『眷属』という関係に葛藤させる様へ導く辺りは、
設定に対する切り口もさり気なく、終盤に向かわせる様子は中々丁寧に描かれていたと思います。

●ただ、本作のシナリオに対する『欠点』としては、
不十分な伏線の張り、『セリフ』へ結び付ける為の描写不足などが挙げられる。

不十分な伏線の張りが印象強く残ってしまったのは、主に悠木姉妹に関する部分で、
前半に『姉妹間の絆』として陽菜の過去の記憶喪失という点に触れられるのだが、
後にこの件に瑛里華が関わっている事が明かされた時は少々唐突に感じた。
これに対する伏線は強調されるべきなのであって、唐突な様子には違和感が残る。

後者に関しては、ラストの『渡り鳥』『約束』といったセリフ。
描写不足は少々誤解を招く言い方かもしれません。
ラストを締めくくるだけあって、本作における重要なキーワードでもあり、恐らく本作がメインとして据えていたものでしょう。

主人公を指す『渡り鳥』という表現は、渡り鳥の様に転校を繰り返し、人との係わり合いを避けていた主人公が、
様々な人物との出会いや再会、生徒会での仕事を通して『率先して行動する、人との係わり合いを大切に思う人への変化』であり、
それは様々な学園内のイベントや他人との係わり合いの上でしっかりと描かれていた。

同様に『約束』というキーワードに関係する瑛里華の『普通の人間として暮らしたい』
という願い・セリフも様々なイベントを通して描写されてきたものだが、
ラストに発せられた『渡り鳥』『約束』といったセリフに結び付けるには、
描写に対して演出などによるフォローが不足していて、強調・結びつけが甘い。

特に、終盤の孝平(主人公)と瑛里華の決断は、確かに二人が導き出したものなのですが、
結末としては根本的な解決になったのかあやふやな所で、腑に落ちない部分もある。
終盤に向けて収束させる様は丁寧であったのに、孝平の『渡り鳥』と対となる瑛里華との『約束』で終わらせるには結びつけが弱く、
希望ある未来へと転換させるには今一歩の描写は欲い。
結果的には作品として昇華しきれず、尻すぼみに終わってしまった印象が残る。
そういう意味では少々勿体無い。

【総合評価】
幸か不幸か、同クールには『アマガミ』『ヨスガノソラ』(またはそれらを逆手に取った『神のみぞ知るセカイ』)
といった同系統のジャンル出身の作品が多く、オーソドックス(古典的)な本作も含めてそれぞれ様々な手法が見られた。
そうした様相の中で本作に対し、主にヒロインなどのキャラクター主張・掘り下げ、恋愛模様、シナリオ等々、
一本化したストーリー、1クールという尺の中で描くべき膨大な要素に、
限界という名の『壁』をまざまざと見せ付けられ、いかにこの手法で作品を作り上げる事が難しいかを再確認させられた。

その中で本作は、冒頭からしっかりと描かんとしている事を明確に据えていて、無駄なく纏められた、
健闘した作品なんじゃないかと思います。
ただ、上に挙げたそれぞれの要素はどれも『壁』一歩手前でこじんまりと纏まってしまっていて、
だからこそ物足りなくも感じる。

前述のラストに対する結びつけの弱さもそうなんですが、それにプラスして一つでも抜けた要素があれば、
恐らく本作はもう1、2ランク評価を上げるに値する作品になり得たんだと思います。

惜しい、実に惜しい作品。
この高い『壁』の一歩先にいった時こそ、初めて良作・名作と褒め称えられる作品が生まれるのかもしれません。
http://www.accessup.org/janime/7_FORTUNE_20ARTERIAL_20Akai_20Yakusoku/


いろんな人がいるなあ(´ー`)