960年代にあって既にイヤミ氏という人物像を造形し得た赤塚の炯眼は他に比べる対象を持たない。 「ざんす」という江戸時代の幇間じみた中性的な語尾。 何かにつけて、「パリでは」と、舶来の知識をひけらかす態度。 取ってつけたような蝶ネクタイ。派手な色の背広。 後ろ髪を内向きにカールさせた長髪。 磨き上げられた出っ歯。細い口ひげ。 まったく文句のつけようのない観察ではないか。 中でも「シェー」のポーズが出色だ。 島国の人間にあるまじき大仰なボディーランゲージ。 片方だけ伸びた靴下が象徴する人格の腐敗。 直角に曲がった手首。 「おフランス」という接頭語の使い方が醸す悪趣味。