>  2011/03/04 (金) 19:51:22        [qwerty]
> > 「ねえ、ちょいとそこの貴女。どうだい女鼠小僧というのは……」
> > 「キューベエくん。君はまだ恨みや妬みの感情に興味を持つているのかい」
> > 鏡に向かつて予行練習をしている僕に後ろから声をかけてきたのは幼少のみぎりより同期のベー太だつた。
> > 僕らはこの地球に派遣されたメンバーでも先遣隊に選ばれたエリイトの一員同士だつた。
> > エリイトだった、と過去形なのは今でなく当時も同様で、僕らは成績的に劣る所があつたのでこの日本というやうな辺境に派遣されたのだつた。
> > 「ベー太くんか。せめて僕の邪魔だけはしないでおくれよ。僕はこの星で直ぐに殊勲を挙げて凱旋したいんだ」
> > 実のところ僕は自分の境遇に不満を抱いていてね。どうして僕のやうな才能がこんな土人の地に埋められねばならぬのか。
> > なあに三ヶ月もあれば本部も僕の待遇を見直すだろうさ。といふ自信もあの頃はまだあつた。
> > 「はは、済まないね。しかし君は女好きだなあ。どうしても女子にこだわるんだね」
> > 「君はバカか。男に生まれて早熟の実を味わわないことには生きてる意味もないよ。君は膣の味というものを知つているかい」
> > 僕はこのベー太という男が嫌いだつた。内心バカにしていた。
> > こんな奴が同期だから僕がこんな待遇になるのだといつも思つていた。
> 僕は「女鼠小僧プロジヱクト」で一定数の評価を得ていた。
> 思春期の多感な膣を嗅ぎ分ける能力を僕は生来もっていた。
> これはインキュベヱタァだからという理由ではなく単純に僕は初潮の臭い、生理の臭いという奴を嗅ぎつける能力が元来備わっていた。
> 好きこそものの上手なれ。そう人間はいうよね。
> 「いやあ凄いなキューベエは」
> ベー太は未だに只の一万ジュールのエネルギーも獲得していなかつた。
> 自分の好成績もあり僕は高飛車になつていたんだ。
> 「ベー太。君はこの星に来て一体何をやつているんだい。
>  僕が見ている限り君は鳥味の乾麺を作る手伝いをしたりしているだけじゃあないか
>  ただ飯ぐらいとはこのことだ。君の活動に使うエネルギーさえ僕らには大きな浪費だというのに」
> 「そんなことはない。インスタントラーメンの開発で救われた人間は多いのだよ。
>  今後この国はもっと巨大な産業を得て発展していく。
>  君のような絶望を糧にするのではなく、僕はもっとポジテイブなパワーに期待したい」
> 僕はその発言を劣等星人を自分の駄目な境遇に重ねていると判断した。
> 「君は風俗嬢に人間的な向上を望むのかい。あいつらはただの穴だ。使い捨てだ。
>  たかがモルモットに入れ込むのは勝手だが精々僕の邪魔だけはしないでおくれよ。
>  その希望とやらがいかに甘美な幻想か。僕も何度か余計なお節介で反故にしたからね」
>  ベー太は僕に何かを言いかけました。
>  それがなんだったか、今なら解ります。しかし言葉を飲み込んだ彼を当時の僕は論破された姿だと解釈したのです。

そして忘れもしない1970年がきた。
僕の「女鼠小僧プロジヱクト」もその頃には斜陽の影を落としていた。
今ならわかるが当時の僕には何一つ理解できなかった。何故誰も女鼠小僧に憧れない!?
僕はぶっきらぼうになっていて、毎日浴びるほど酒を飲んだ。女を抱いた。
すると抱いた女が寝しなに囁いたのだ。
「ねえ、女鼠小僧?になってもいいわよ。でも願いがあるの」
「何でも言って。カラーテレビが欲しいのかい?自動車かい?クーラーかい?」

「万博に連れて行ってほしいの」

その一言は僕を打ちのめすに充分な一言だった。
そして冷やかし気分でその女を連れてベー太のプロジヱクトである大阪万博に赴いたのだった。
大阪万博は国を挙げての途方もない、しかしどこか奇妙なお祭りだった。
大勢の人が会場に押しかけ、列を作り、迷い、夕方にはすっかり疲れ果てていました。
中でも人類の進歩の象徴であるアメリカ館の人気は凄まじく、人々は子供の手をひいて何時間も待った挙げ句
ほんの数秒間だけ、アポロが月から持ち帰った石を眺めるのです。
そして、それが何の変哲もない塊であることを確認して満足げに通り過ぎて行くのです。
それはひどく奇妙な光景でした。にもかかわらず、入場者数は日を追うごとに膨れあがっていったのです。
会期中の入場者数は六千四百万人だったというから、数から言えば国民の半数が万博詣でをした計算になります。
あの半年間、千里の万博会場は確かに日本の中心地だったと言えるでしょう。
僕が根気よくこうしたことを書くのは、これが単なる博覧会ではなかったことを知ってほしいからです。
終戦の年からちょうど四半世紀の節目に開催された大阪万博は高度成長の総仕上げの見本市であり
仮に戦後という時代があったとすれば、その幕引きの役割を果たした祭典でもあったように思います。

参考:2011/03/04(金)19時34分46秒