> 2011/03/28 (月) 21:40:19 ◆ ▼ ◇ [qwerty]> 市民諸君
> 我々東京市民は今やいよいよ区画整理の実行にとりかからなければならぬ
> 時となりました。
> 第一に我々が考えなければならぬことは、この事業は実に我々市民自身が
> なさなければならぬ事業であります。決して他人の仕事でもなく、また政
> 府に打ち任せて知らぬふりをしているべき仕事ではない。それ故にこの事
> 業ばかりは我々はこれを他人の仕事として、苦情をいったり批評をしたり
> してはいられませぬ。
> 我々は何としても昨年九月の大震火災によって受けた苦痛を忘れることは
> 出来ない。父母兄弟妻子を喪い、家屋財産を焼き尽し、川を渡らむとすれ
> ば橋は焼け落ち、道を歩まむとすれば道幅が狭くて身動きもならぬ混雑で、
> 実にあらゆる困難に出遇ったのである。我々はいかなる努力をしても、再
> びかような苦しい目には遭いたくはない。また我々の子孫をしていかにし
> ても、我々と同じような苦しみを受けさせたくはない。これがためには我
> 々は少なくともこの際において道路橋梁を拡築し、防火地帯を作り、街路
> 区画を整理せなければならぬ。
> もし万一にも我々が今日目前の些細な面倒を厭って、町並や道路をこのま
> まに打ち棄てて置くならば、我々十万の同胞はまったく犬死したこととな
> ります。我々は何としてもこの際、禍を転じて福となし、再びこの災厄を
> 受けない工夫をせなければならぬ、これが今回生き残った我々市民の当然
> の責任であります。後世子孫に対する我々の当然の義務であります。
> 街路その他の公設物を整理するには、買収による方法と区画整理による方
> 法とがあります。しかしながら今回のごとく主として焼跡を処理する場合
> は、区画整理による方法が最も公平であり、またもっとも苦痛の少ない比
> 較的我慢しやすい方法であります。区画整理によりまして、道路敷地とな
> った面積は皆その所有地に按分して平等に負担し、これが全面積の一割ま
> でならば無償で提供し、一割以上であればその超過部分に対して相当の補
> 償を受ける、そして誰一人として自分の所有地を取られてしまう人がなく、
> 皆換地処分によって譲り合って自分の土地が残る。苦痛も平等に受け利益
> も平等に受ける。かような都合の好い方法ではあるが、ほとんど全部の者
> が皆動くのであるから、この場合において初めて実行の出来る方法であり
> ます。この機会をはずしては到底行われない相談である。それ故いかにし
> ても是非ともこの際に断行せなければならぬのである。
> 顧みますると、我々は震災後既に半箇年を経過しました。土地の値段も震
> 災直後は二分の一か三分の一に下落したと思われたものが、今日では震災
> 前と同一になりました。こうなって来ると段々に震災当時の苦痛を忘れて
> 来て、一日送りに安逸を望み、土地の買収価格が安いとか、バラックの移
> 転料が少ないとか、区画整理も面倒臭いとかいう気分の出て来るのも人情
> の弱点で、無理もありませぬ。しかし、我々はこの際、かような因循姑息
> なことを考えてよろしいでしょうか。実に今日における我々東京市民の敵
> は我々の心中の賊である。我々はまずこの心中の賊に打ち勝たねばならぬ。
> 世界各国が我々のために表したる甚大なる厚誼に対しても、我々は断じて
> この際喉元過ぐれば熱さを忘れる者であるという謗りを受けたくはない。
> 区画整理の実行は今や既定の事実であります。ただ我々はどこまでもこれ
> を国家の命令としてやりたくはない。法律の制裁があるから止むを得ない
> としてやりたくはない。まったく我々市民の自覚により我々市民の諒解に
> よってこれを実行したい。
> 我々東京市民は今や全世界の檜舞台に立って復興の劇を演じておるのであ
> る。我々の一挙一動は実に我が日本国民の名誉を代表するものである。
長ze
参考:2011/03/28(月)21時40分03秒