2011/04/05 (火) 09:39:34 ◆ ▼ ◇ [qwerty]東京都、台東区、サラサラと雨が降る6月の夜――――――――
私は近所のバーでブドウ酒を浴びていた
「あなたは羊に会うわ」
と突拍子もない事を言う秋姉妹の妹の姿がそこにあった
彼女とは長い飲み仲間である
『やれやれ、なんだい藪から棒に――――』,
私は訝しみながらそう答えた、彼女がこういう突拍子もない事を言うのは
大抵面倒事なのである
「いいえ、壁から釘でございます、とにかく羊に気をつけることね」
『忠告してくれるのは有難いが…何が起きるかは教えてくれないのかい?』
「教えたところで、どうにもできないのよ」
そう言って彼女はバーを後にした、グラスのワインレッドが寂しげに見えた
いやはや、今日も私の奢りか…
勘定を済ませた私はバーを後にした
忘れてしまいたいことやどうしようもない寂しさに包まれた時には酒に逃げるに限る
浮足気味に帰路を楽しんでいた時、ズドン、と壁から大きい釘が現れた
『わあ!』
私は思わず声をあげた
<おば橙、あなたがおば橙ね>
『まさか、あなたは…メリー・ナイトメア…、やれやれ本当に羊が来るとは…』
<私が来ることを知っていたなんて…やはりあなたは只者じゃないわね>
『いいえ、私はただの自由人よ…』
<ニート妖怪の言う事か!>
私は武術の心得があるが、今日は酒がまわっている
これでは苦戦は必至、しかも相手はメリー・ナイトメアと来ている
<もらったぁ!>
メリーの上段かかと落としが私の右側頭部に当たる
『がっ――――』
いけない、このままではやられる…とそう思っていた時
遠くからバイクの音が、あの排気音はまさか――――
≪…≫
『クー子、助けに来てくれたのか…』
<待ちなさい>
全身をワインレッドの色に身を包んだ少女に私は助けられた
どうやらここは安全地帯のようだ…
~ 第一章 stranger