まず最初に気付いたのは、音響監督だった。彼は入り口の一番近くに座っていたからね。 突然「ヒ」という短い声を上げてイスから転げるように逃げ出して…。 次いで釘宮(理恵)が内ポケットのナイフに手をかけるのが見えた。 ドアの向こうに誰か立っている。それだけなのに収録現場の室温が2~3度下がったようだったよ。 誰かがつぶやいたんだ。「鬼…」と。 だからドアが開いて田村さんが入ってきたときは皆一様にホッとしたんじゃないかな。 「脅かさないで下さいよ」「ごめんなさ~い!ゆかり、反省☆」なんて二言三言交わしてさ(笑 ただ…。 ───ただ? 釘宮は終始構えを解かなかった。それは正しかったと思う。 田村さんの後輩への躾はすでに始まっていたんだ。 (月刊『秘伝』 斎藤千和インタビューより)