2011/09/05 (月) 17:02:51        [qwerty]
「どうだね、斎藤君。キミも」
そういって差し出された櫻井の酌に千和は手の平を突き出し、静かに言った。
「いえ、ありがたいのですがお気持ちだけ。それに櫻井さんもそれ以上飲まれない方が宜しいかと」
「オイオイ気を遣ってくれるのは嬉しいが、私はこう見えて───」
身体を揺すって笑う櫻井の表情が次の千和の一言で崩れる。
「喧嘩に負けた言い訳にでもなれば三流もいいところでしょうから」
「ほォ」
それは羽丘芽美がセイントテールに変わるかのような静かな、そして深い眼光であった。
「シェーラ以来のブランクに期待しているのかね?」
「まさか。『痩せ狼に射る弓無し』と言うでしょう」
「ハハハハ、それを聞いて安心したよ」
30分後、居酒屋を出た二人は少し離れた駐車場で向き合っていた。
他に誰の気配もない深夜のリング。頭上の月だけが立ち会い人であった。

(月刊『秘伝』 連載「猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和伝-」より)