見舞いの後…待合室の廊下に寄りかかりながら、千和は包帯だらけになった千葉の姿を思い返していた。 おもむろに森永が口を開く。 「何者なんだろうね。千葉さんをあそこまで追い詰めた上に正体も掴ませないなんて…」 「あれは半分嘘だな」 「え?」 我々若手を巻き込まないための、気遣い──。千葉繁という男をよく知る千和には逆にそれが辛かった。 「会話の最中に千葉さんの反応がやや遅れてた。鼓膜をやられている。多分、歌で」 「じゃあ…まさか」 「たてかべさんだよ。あの人は本気で事を起こすつもりなんだ」 その名前は森永も、植田も、中原も、当の千和にすら畏敬を抱かせた。 「出よう、千和。まずは情報収集だ」 彼女達に心配をかけまいと明るく振る舞っていた、千葉の言葉が脳裏に響いた。 「ン謎の凶手に倒れる千葉、そして混乱にゥ陥る声優界の明日はァッ!?次回!さらばレイ!時代は勇者の───」 (月刊『秘伝』 連載「猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和伝-」より)