2011/09/05 (月) 17:06:16        [qwerty]
「あの奥にいるのは?」
千和が目をやったのは、売り物ではなく"処分品"の方であった。
必要無しのレッテルを貼られた者達はどれもうなだれ、うずくまり、敗者の顔しかしていなかった。
その奥、暗がりにひときわ大きな影。その顔が他と一線を画していたのは──。
「…あれももうちょっと客に媚びれば、こんな処分をされずに済んだのかもしれんけど」
まるで犬のような眼光。それが何より千和の興味を引いたのだ。
「オヤジさん、あいつ檻から出せるかい?」
「なんだ千和ちゃん…あんなのがいいのかい。物好きだね」
二十八番、と呼ぶと影が立ち上がり、のそりと檻の外へ踏み出した。5メートルはあろうか巨躯であった。
「構えろ。この千和を楽しませたなら私がお前に名前をやろう」
千和の顔が笑みに引きつる。二十八番と呼ばれた獣もまた。
そんな二人を見ながら壁により掛かり、オヤジさんはキセルを燻らせた。
「まぁそういう物好き、嫌いじゃないけどねぇ」

(月刊『秘伝』 連載「猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和伝-」より)