「あの奥にいるのは?」 千和が目をやったのは、売り物ではなく"処分品"の方であった。 必要無しのレッテルを貼られた者達はどれもうなだれ、うずくまり、敗者の顔しかしていなかった。 その奥、暗がりにひときわ大きな影。その顔が他と一線を画していたのは──。 「…あれももうちょっと客に媚びれば、こんな処分をされずに済んだのかもしれんけど」 まるで犬のような眼光。それが何より千和の興味を引いたのだ。 「オヤジさん、あいつ檻から出せるかい?」 「なんだ千和ちゃん…あんなのがいいのかい。物好きだね」 二十八番、と呼ぶと影が立ち上がり、のそりと檻の外へ踏み出した。5メートルはあろうか巨躯であった。 「構えろ。この千和を楽しませたなら私がお前に名前をやろう」 千和の顔が笑みに引きつる。二十八番と呼ばれた獣もまた。 そんな二人を見ながら壁により掛かり、オヤジさんはキセルを燻らせた。 「まぁそういう物好き、嫌いじゃないけどねぇ」 (月刊『秘伝』 連載「猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和伝-」より)