「結論から言おう、今日の試合に沢城は出ない」 それを聞いて、数千人の大男達が一斉に殺気立つ。 この全員が沢城みゆきのファン。たとえ警察を呼んだところでもはや対処する術はない。 慌てたスタッフたちが千和をその場から連れだそうとするが、小さな身体はびくともしなかった。 「今、沢城は別の会場で『もう一つのシアター!』という舞台に出ている。試合を捨てるほどの魅力がその芝居にはあるらしい」 数千の殺意を前に千和はからりと笑う。 「その芝居の原作と脚本(ホン)を書いたのは、有川浩。『図書館戦争』の原作者だ」 千和の言葉に、一転、男達は困惑し、顔を見合わせた。 ───確かに沢城はあの『図書館戦争』から生還したのだが…。 「言い直そう。有川浩は『フリーター、家を買う。』の原作者だ」 その瞬間、現場の空気が文字通り変わった。 何人かは胃を押さえ血反吐を吐いた。中には白目を向いて倒れ、痙攣している者さえいる。 (月刊『秘伝』 連載「続・猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和外伝-」より)