2011/09/05 (月) 17:09:37        [qwerty]
「結論から言おう、今日の試合に沢城は出ない」
 それを聞いて、数千人の大男達が一斉に殺気立つ。
 この全員が沢城みゆきのファン。たとえ警察を呼んだところでもはや対処する術はない。
 慌てたスタッフたちが千和をその場から連れだそうとするが、小さな身体はびくともしなかった。
「今、沢城は別の会場で『もう一つのシアター!』という舞台に出ている。試合を捨てるほどの魅力がその芝居にはあるらしい」
 数千の殺意を前に千和はからりと笑う。
「その芝居の原作と脚本(ホン)を書いたのは、有川浩。『図書館戦争』の原作者だ」
 千和の言葉に、一転、男達は困惑し、顔を見合わせた。
 ───確かに沢城はあの『図書館戦争』から生還したのだが…。
「言い直そう。有川浩は『フリーター、家を買う。』の原作者だ」
 その瞬間、現場の空気が文字通り変わった。
 何人かは胃を押さえ血反吐を吐いた。中には白目を向いて倒れ、痙攣している者さえいる。

(月刊『秘伝』 連載「続・猛禽の咆吼(こえ) -斎藤千和外伝-」より)