2011/11/18 (金) 17:44:26        [qwerty]
ある携帯開発屋の日記

翌日から、ハード屋が職人部隊となった。あのきめ細かいボードに何やら 
改造を加えて、何でもASIC実装前にジャンパ線を付けているようにも見えた 
のだが。 
とにかく、デバッグ用に予定していた台数に全然足りないのだ。 
俺たちの割り当て10台も、1台を手に入れるのが精一杯だった。それもちょっと 
衝撃を受けるとICEの接続が断線してしまう有様だった。 
「こんなの使えるか!」と次々にソフト屋はハード屋にケータイを叩きつけた。 
彼らも数日寝ていない。暴言に無反応であった。 
最後に、上位会社のその上の会社のSEが来て、デスマで疲れきったハード屋(尚も 
半田付けで忙しい)の前に座り、一言。 
「あんたたちさぁ、やる気あんの?」 
少しだけ沈黙の間があった。 
ハード屋は黙って、その上位SEの手の甲に半田コテを押し付けた。 
「うぎゃぁぁぁぁああああああ!」 

それを火蓋に、ハード屋とソフト屋の乱闘が始まった。 
「ざけてんじゃねーぞ。ゴルァ!」 
「上等だ、コラァ!」 
こんな現場を上位の上位の会社の人に見られたら…、 
なんと彼らも当事者になって暴れていたのだ。 
「軍曹!この場はひとまず逃げましょう」鼻血を流した上等兵が脱出を提案した。 
俺も殴られている最中だったが、彼の提案に従ってその場を離れた。足にしがみ付く 
奴がいて、よく分からずに蹴りを入れて逃げた。 

喫煙室に行ってタバコに火をともす。よく見たら上等兵の鼻が折れているように 
見えた。俺は指を差して教えた。彼は笑った。苦笑いだった。 
途切れ途切れな笑い声は、次第に泣き声へと変わっていった。そしてしゃがみ込んで 
嗚咽し始めた。夕日の眼にしみる喫煙室にいるのは、俺たち3人だけだった。 

俺は窓際に立ち、尾崎豊の「街路樹」を歌い始めた。