2011/11/18 (金) 17:44:26 ◆ ▼ ◇ [qwerty]ある携帯開発屋の日記
翌日から、ハード屋が職人部隊となった。あのきめ細かいボードに何やら
改造を加えて、何でもASIC実装前にジャンパ線を付けているようにも見えた
のだが。
とにかく、デバッグ用に予定していた台数に全然足りないのだ。
俺たちの割り当て10台も、1台を手に入れるのが精一杯だった。それもちょっと
衝撃を受けるとICEの接続が断線してしまう有様だった。
「こんなの使えるか!」と次々にソフト屋はハード屋にケータイを叩きつけた。
彼らも数日寝ていない。暴言に無反応であった。
最後に、上位会社のその上の会社のSEが来て、デスマで疲れきったハード屋(尚も
半田付けで忙しい)の前に座り、一言。
「あんたたちさぁ、やる気あんの?」
少しだけ沈黙の間があった。
ハード屋は黙って、その上位SEの手の甲に半田コテを押し付けた。
「うぎゃぁぁぁぁああああああ!」
それを火蓋に、ハード屋とソフト屋の乱闘が始まった。
「ざけてんじゃねーぞ。ゴルァ!」
「上等だ、コラァ!」
こんな現場を上位の上位の会社の人に見られたら…、
なんと彼らも当事者になって暴れていたのだ。
「軍曹!この場はひとまず逃げましょう」鼻血を流した上等兵が脱出を提案した。
俺も殴られている最中だったが、彼の提案に従ってその場を離れた。足にしがみ付く
奴がいて、よく分からずに蹴りを入れて逃げた。
喫煙室に行ってタバコに火をともす。よく見たら上等兵の鼻が折れているように
見えた。俺は指を差して教えた。彼は笑った。苦笑いだった。
途切れ途切れな笑い声は、次第に泣き声へと変わっていった。そしてしゃがみ込んで
嗚咽し始めた。夕日の眼にしみる喫煙室にいるのは、俺たち3人だけだった。
俺は窓際に立ち、尾崎豊の「街路樹」を歌い始めた。