翌日、談春(ボク)は談志(イエモト)と書斎で二人きりになった。 「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と云った。 突然談志(イエモト)が、 「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱味を口であげつらって、 自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。 一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。 本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。 しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。 芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。 だがそんなことで状況は何も変わらない。 よく覚えとけ。 現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで 仕方ない。 現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。 そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。 現状を認識して把握したら処理すりやいいんだ。 その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」 志らくとつるむようになった。 (立川談春著「赤めだか」扶桑社刊より)