2012/05/08 (火) 21:31:54        [qwerty]
 翌日、談春(ボク)は談志(イエモト)と書斎で二人きりになった。

「お前に嫉妬とは何かを教えてやる」と云った。
    
 突然談志(イエモト)が、

「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱味を口であげつらって、
 自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。
 一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。
 本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。
 しかし人間はなかなかそれができない。嫉妬している方が楽だからな。
 芸人なんぞそういう輩の固まりみたいなもんだ。
 だがそんなことで状況は何も変わらない。
 
 よく覚えとけ。
 現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで
 仕方ない。 現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。
 そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。
 現状を認識して把握したら処理すりやいいんだ。
 その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」

 志らくとつるむようになった。

(立川談春著「赤めだか」扶桑社刊より)