『ONE』や『AIR』は、直球勝負のあまり、劣情をそそる物語としては完全に失 敗している。むしろ、劣情誘起のすがすがしいまでの放棄が、逆に何とも怪奇 的な情景を鑑賞者に提示する。熱にうなされる白痴の少女を真冬の野原で強姦 してしまうのは、どうかと思う。 では、どうすればよいか。『君が望む永遠』では、感情を喚起する人格と劣情 を喚起する人格が明確に区別されて配置される。劣情のはけ口となるにはあま りにも繊弱な人格に、鑑賞者はうるうるしつつ、汚れもの専用人格と身体だけ の関係を続けるのである。 『君望』で、感情喚起人格と劣情喚起人格が並立するのは、鑑賞者に人格選択 の苦渋を追体験させるためなのだが、これにはあまり意味がない。この選択に 際しては、鑑賞者に迷いは生じない。捨てられるのは、体だけの関係しかもち 得ない劣情喚起人格である。