満月の宵。光っては崩れ、うねっては崩れ、逆巻き、のた打つ浪のなかで互い に離れまいとつないだ手を苦しまぎれに俺が故意(わざ)と振り切ったとき女 は忽(たちま)ち浪に呑まれて、たかく名を呼んだ。俺の名ではなかった。