2013/06/01 (土) 16:33:06        [qwerty]
「おい! とんだ、そら豆だ。来い!」
 堀木の声も顔色も変っています。堀木は、たったいまふらふら起きてしたへ行った、
 かと思うとまた引返して来たのです。
「なんだ」
 異様に殺気立ち、ふたり、屋上から二階へ降り、二階から、さらに階下の自分の部屋へ
 降りる階段の中途で堀木は立ち止り、
「見ろ!」
 と小声で言って指差します。
 自分の部屋の上の小窓があいていて、そこから部屋の中が見えます。
 電気がついたままで、二匹の動物がいました。
 自分は、ぐらぐら目まいしながら、これもまた人間の姿だ、これもまた人間の姿だ、
 おどろく事は無い、など劇しい呼吸と共に胸の中で呟き、ヨシ子を助ける事も忘れ、
 階段に立ちつくしていました。
 堀木は、大きい咳ばらいをしました。自分は、ひとり逃げるようにまた屋上に駈け上り、
 寝ころび、雨を含んだ夏の夜空を仰ぎ、そのとき自分を襲った感情は、怒りでも無く、
 嫌悪でも無く、また、悲しみでも無く、もの凄まじい恐怖でした。
 それも、墓地の幽霊などに対する恐怖ではなく、神社の杉木立で白衣の御神体に
 逢った時に感ずるかも知れないような、四の五の言わさぬ古代の荒々しい恐怖感でした。

これだこれ(;´Д`)