2014/06/24 (火) 11:21:35        [qwerty]
私の名はメガネ。
かつては友引高校に通う平凡な一高校生であり、退屈な日常と戦い続ける
下駄履きの生活者であった。だが、あの夜、ハリアーのコックピットから
目撃したあの衝撃の光景が私の運命を大きく変えてしまった。ハリアーで
あたるの家に強行着陸したその翌日から、世界はまるで開き直ったかのご
とくその装いを変えてしまったのだ。いつもと同じ町、いつもと同じ角店、
いつもと同じ公園。だが、なにかが違う。路上からは行き来する車の影が
消え、建売住宅の庭先にピアノの音もとだえ、牛丼屋のカウンターであわ
ただしく食事をする人の姿もない。この町に、いやこの世界に我々だけを
残し、あの懐かしい人々は突然姿を消してしまったのだ。数日を経ずして
荒廃という名のときが駆け抜けていった。かくも静かな、かくもあっけな
い終末をいったい誰が予想しえたであろう。人類が過去数千年にわたり営
々として築いた文明とともに、西暦は終わった。しかし、残された我々に
とって終末は新たなるはじまりにすぎない。世界が終わりを告げたその日
から、我々の生き延びるための戦いの日々が始まったのである。奇妙なこ
とに、あたるの家近くのコンビニエンスストアは、押し寄せる荒廃をもの
ともせず、その勇姿をとどめ、食料品、日用雑貨等の豊富なストックを誇
っていた。そして更に奇妙なことに、あたるの家には電気もガスも水道も
依然として供給され続け、驚くべきことに新聞すら配達されてくるのであ
る。当然我々は、人類の存続という大義名分のもとにあたるの家をその生
活の拠点と定めた。しかし何故かサクラ先生は早々と牛丼屋「はらたま」
をオープンして、自活を宣言。続いて竜之介親子、学校跡に浜茶屋をオー
プン。そして面堂は、日がな一日戦車を乗り回し、おそらく欲求不満の解
消であろう、ときおり発砲を繰り返している。何が不満なのか知らんが、
実に可愛くない。あの運命の夜からどれ程の歳月が流れたのか。しかし今、
我々の築きつつあるこの世界に時計もカレンダーも無用だ。我々は、衣食
住を保証されたサバイバルを生き抜き、かつて今までいかなる先達たちも
実現し得なかった地上の楽園を、あの永遠のシャングリラを実現するだろ
う。ああ、選ばれし者の恍惚と不安、共に我にあり。人類の未来がひとえ
に我々の双肩にかかってあることを認識するとき、めまいにも似た感動を
禁じ得ない。