2015/01/23 (金) 21:45:53 ◆ ▼ ◇ [qwerty]手袋を買いに
洞穴に親子の狐が住んでいた。初めて雪を見た坊やはその冷たさにびっくり
する。その小さな手がしもやけになっては可哀想だと思ったお母さんは、
夜になると坊やを連れて町に向かう。
町の光が見えるところまで来ると、お母さんは昔、人間にひどい目にあわさ
れた事を思い出し、どうしても町に近づけない。坊やがせかすので仕方なく
お母さんは坊やを一人で町に行かせる事にした。お母さんは坊やの片手を
人間の手にかえて言った。
「トントンと戸を叩いて、今晩はって言うんだよ。中から人間が、すこうし
戸をあけるからね、その戸の隙間から、人間の手をさし入れてね、この手
にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ」
よちよち歩きで帽子屋にたどりついた坊やはお母さんに言われたとおり、戸
をノックした。少し開いた隙間からこぼれる電燈の灯りにびっくりした坊や
は間違って、人間の手の方でなく、本当の狐の方の手を出してしまう。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
帽子屋はおやおやと思ったが、坊やの持ってきたお金が葉っぱでない本物だ
と確かめると、その狐の手に暖かい手袋をつけてやった。
町の見える場所から坊やの帰りをふるえながら待っていたお母さんは、無事
坊やが戻ると涙が出るほど喜んだ。
お母さんは坊やから人間は思ったよりも怖くなかった事を聞くとあきれたが、
「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」と
つぶやいた。
(ノД`、)