2006/01/16 (月) 19:23:35        [qwerty]
ニヤニヤ
月刊雑誌ニヤニヤ第六号目次(『ニヤニヤ』 No.6 明治44年)
抜粋

ニヤニヤせんとするには心を平清にせよ・・・渋沢男爵
笑と滑稽は家庭に必要なり・・・村井弦斎
俺までニヤニヤさせるのか・・・頭山満
ニヤニヤ法螺ものがたり・・・杉山茂丸
ニヤニヤの気北海の天に溢る
ニヤニヤ術指南書・・・池内薄緑
ニヤニヤと美顔術・・・小口紫女
お芽出度商店調べ・・・でくの坊

寸評
 とりたてて、ある特定の記事が面白いというわけではないのだけれど、こうま
でニヤニヤされた日にゃあ、紹介せずばなるまい。なんといっても「ニヤニヤ」
というタイトルがよろしい。これだけ目次にニヤニヤが並ぶと壮観ですな。しか
し、頭山満さんの「俺までニヤニヤさせるのか」には笑ってしまった。明治の人
間が「俺様にまでそんなことをさせるのか」とすごんでいるのだから尋常ならざ
る怒りだろうとは推測されるのだが、その怒りの原因が「ニヤニヤさせられてし
まった」ことらしいというのがもう何と言っていいのかわからないが素晴らしい。
燕尾服を着た山羊髭の老人がニヤニヤしながら烈火のごとく怒っているという、
常人にはほぼ思いつけない夢のような映像が目の前に浮かんできて、ただもう笑っ
てしまう(竹中直人さんの「笑いながら怒る人」ですね)。記事の実際の内容は
桂とか、板垣とか、大隈とか当時の政治家についての漫談みたいなもので、タイ
トル「俺までニヤニヤさせるのか」とほぼ何の関係もない。このいい加減なとこ
ろも、明治の人間の腹の大きさを示していると言ってよかろう。

ついでに、第六号の奥付の上に「ニヤニヤ倶楽部会則」というのがあるからいく
つか抜き書きしておこう。


一、 本会は現代人心の萎微堕廃、危険思想及悲観的傾向を打破し楽天的美風の鼓
吹に勉め、人生を幸福の境地に導くを以て目的とす。 
一、 本会会員は不平、煩悶、悲哀の念を去りニヤニヤとして快活に事業、社交に
奮闘勤勉する男女を以て組織す。 
一、 本会の主義鼓吹機関として、毎月一回ニヤニヤ雑誌を発行し、無代価にて会
員に配布す。 
一、 本会は毎年一回ニヤニヤ大会を催し、又随時ニヤニヤ講演会、ニヤニヤ演芸
会を開催し、相互の温情を交ゆ。 
一、 本会会員を終身会員、通常会員の二種に分つ。 
一、 終身会員は熱心なるニヤニヤ主義者にして一時に金五圓を前納したる人を以
てし、終身会員にはニヤニヤメタルを贈呈す。 
一、 普通会員としてニヤニヤメタルを望む者は実費として金一圓を収められるべし。 

 ニヤニヤメタルとは、図によると、ハート形をしたメダルで表には大黒さんが
ニヤニヤと書いてある大きな袋をかたげている図が入っていて、裏には大きく
「ニヤニヤ倶楽部」と書いてある。上にわっかがついているところを見ると、金
メダルのように、紐をつけて首からぶら下げるものなのだろう。うーん、欲しい。
しかし、地獄の沙汰も金次第とは言うが、ニヤニヤメダルも金次第なんですね。
年一回のニヤニヤ大会というのも出席してみたい。とにかく、なにがなんでもニ
ヤニヤしようとする強い意志を持つ人たちに囲まれるなんて、どんな心地がする
ものだろうか。一瞬、頭の中でロメロのDawn of the living deadのシーンが浮
かんだのだが、これは私の思い過ごしか?そのニヤニヤ集団の中にいて一人だけ
ニヤニヤしていないとやっぱり
つるし上げられるのか。それも、ニヤニヤ顔の人たちに?だんだんおそろしくなってきた。

 ちなみに、このニヤニヤ雑誌第六号の奥付には「転載随意」とある。我が産業
ロックのホームページも「どんどん無断でリンクして下さい」だから、「リンク
随意」なのだが、「転載随意」となると「いくらでも無断で引用して下さい」の
ことだから、そうなると私たちの「リンク随意」など足下にも及ばないすごい太っ
腹さ加減である。さすが明治のニヤニヤ倶楽部、見上げた根性だ。ところが、大
正九年の12月の百十四号になると、奥付が「禁転載」と変わっていて、いささ
か情けない。大正になってさすがのニヤニヤ倶楽部もケツのあなが小さくなった
ようだ。世の中世知辛くなると、そうはニヤニヤしていられないということか。