『屠殺人にも時々間違ひがあってこの間も豚を刺し損じあべこべに蹴ら れて死んだ相だ。日本なら早速因縁話さね。だが米國の案内者はそんな風 にはいわなかつた。動力を起こす機械場に会社の役員の写真がかかつて居 た。こんな残酷な商売をする社長はどんな奴かと気をつけて見ると一寸意 気な若い紳士で意外だった』 『西洋ぢゃ獣が丁度日本のおさかななのだから、それを料理する屠殺人 は日本の魚屋さんのように別に職業上の卑しみは受けぬでせうね』 『いや矢つ張り米国でも屠殺人は嫌はれてるそうだ……』