2006/03/03 (金) 18:02:03 ◆ ▼ ◇ [qwerty] まず大粒のオリーブをちいさい頬白に詰める。その頬白をこんどはベーコンを巻い
てアオジに詰める。そのアオジはつぎに鶉に詰める。それを今度は千鳥に包む。それ
をさらに小綬鶏に詰め、山鴨に詰め、ホロホロ鳥に詰め、鶏、雷鳥、鵞鳥、七面鳥と
だんだん大きな鳥に詰めていくのですが、そのあいだにも野菜や香辛料を詰め込み、
最後は野鴨の腹にしまうというのです。
この塊をオーブンにいれ、じっくりと火を通す。すると、それぞれの生きとし生け
るものの肉汁果汁がしみだし、詰められた森、沼、野原、農園の滋味が溶け合い、精
気が中までしみ込んでいっとう奥のオリーブの実にたまりますね。じっくり焼けたら、
こんどはその野鴨を開いて七面鳥をひっぱりだし、野鴨は捨ててしまう、つぎに七面
鳥から鵞鳥をひっぱりだし、七面鳥はこれも捨ててしまう。つぎは雷鳥、つぎは鶏、
とつぎつぎに開いては捨てていく。
そうして最後に残った頬白の中からオリーブの実をだして、これを食べる、という
のであります。この話は吉田健一氏の『舌鼓ところどころ』という書物の中の「文学
に出て来る食べ物」という一章に紹介されておりますが、つまりフランスのサヴァラ
ン的味覚である家禽野禽は味付けに使うだけで捨てちゃうという、フランス料理を
ちょっと小馬鹿にした短編小説であります。