最悪のシナリオから考えよう。2008年北京オリンピックの女子マラソン。 先頭を走る日本選手に、42キロの沿道を埋めた観衆から「小日本」「鬼子」 と罵声(ばせい)が浴びせられる。それにペットボトルさえも。世界中の人々 が自国の応援に集まるなか、日本の応援団だけは「中国人民を刺激すれば安全 は保証できない」と中国政府に言われ、日の丸も振れないし、日本語の声援も ダメ。日本選手達は、どの種目でどの国と対戦しようと、中国人観衆の怒声と 相手国への大声援の中で競技しなければならない。その前に、日本ではそのよ うなオリンピックに参加すべきかとの議論も出ていよう。 さらに深刻なのは10年、20年後だ。中国の経済規模は日本を凌駕(りょう が)し、圧倒的なアジアの最強国家になっている。その時代に中国の政府、軍 部、社会を支配するのは、嫌日感情の強い世代である。日本の国家安全保障に 直結する事態となる。 日中双方とも、今の事態の深刻さを十分認識していない。放置すればそうなる のである。