2006/03/26 (日) 13:04:56        [qwerty]
「百三歳になったアトム」谷川俊太郎



人里離れた湖の岸部でアトムは夕日を見ている

百三歳になったが顔は生まれたときのままだ

鴉の群れがねぐらへ帰って行く



もう何度自分に問いかけたことだろう

ぼくには魂てものがあるのだろうか

人並み以上の知性があるとしても

寅さんにだって負けないくらいの情があるとしても



いつだったかピーターパンに会ったとき言われた

きみおちんちんないんだって?

それって魂みたいなもの?

と問い返したらピーターは大笑いしたっけ



どこからかあの懐かしい主題歌が響いてくる

夕日ってきれいだなあとアトムは思う

だが気持ちはそれ以上どこへも行かない



ちょっとしたプログラムのバグなんだ多分

そう考えてアトムは両足のロケットを噴射して

夕日のかなたへと飛び立って行く