「百三歳になったアトム」谷川俊太郎 人里離れた湖の岸部でアトムは夕日を見ている 百三歳になったが顔は生まれたときのままだ 鴉の群れがねぐらへ帰って行く もう何度自分に問いかけたことだろう ぼくには魂てものがあるのだろうか 人並み以上の知性があるとしても 寅さんにだって負けないくらいの情があるとしても いつだったかピーターパンに会ったとき言われた きみおちんちんないんだって? それって魂みたいなもの? と問い返したらピーターは大笑いしたっけ どこからかあの懐かしい主題歌が響いてくる 夕日ってきれいだなあとアトムは思う だが気持ちはそれ以上どこへも行かない ちょっとしたプログラムのバグなんだ多分 そう考えてアトムは両足のロケットを噴射して 夕日のかなたへと飛び立って行く