2006/06/29 (木) 21:25:16 ◆ ▼ ◇ [qwerty]http://www.bonz.co.jp/netnavi/magazine/backno/00074_2.htm
≪[蹉跌のむこうに]自分探しへの序奏/4 「非現実的」を実現≫
◇声優への「夢」つかむ--反対乗り越え…不器用さバネに
「大きくなったら○○になりたい」と誰もが持つ子供のころの夢。分別がつ
くころになっても持ち続けていたその夢を「非現実的」と周りの人に否定され
たら……。
苦悩の末、彼女は夢を選び、そして現実のものにした。桑島法子(ほうこ)、
26歳。アニメ「機動戦艦ナデシコ」(テレビ東京系)のヒロイン「ミスマル・
ユリカ」役を務めた、今最も注目される金ケ崎町出身の若手声優。8月に公開
予定のアニメ「アテルイ」への出演も決まっている。
× × ×
小学校の卒業文集に、夢を「声優」と書いた。小さいころ見た宮崎駿監督の
「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」の影響が大きかったと思う。実
写では到底表現できないスケールの大きさ、時を超えた壮大なテーマにひかれ
た。宮崎作品を見るたびに、内気な自分が別人に変わった気がした。
中学時代には声優になるための第一歩として演劇部を作った。「上京して声
優になる」と、この時には決めていた。「演劇をやるために進学する」と、高
校は演劇の優勝回数の多いことを基準に選んだ。進んだのは県南の進学校。
「ここなら夢に近づける」。期待は膨らんだ。
× × ×
しかし、思惑は外れた。演劇部を育て上げた顧問の教師は既に異動していた。
脚本を書き、活動を盛り上げていた3年生が引退してからは、「やる気」を巡
って他の部員との心の溝を感じた。「全国どころか東北でも通用しない」とい
ら立ってばかりいた。
満たされぬ思いを将来の夢を描くことで何とか支えてきた。その一本の糸を
担任の一言が断ち切った。1年の2学期の2者面談。「将来は声優になりたい」
と語った桑島さんに担任は「そんな夢物語のようなことを。ここは進学校だ」
と冷たく言ったという。「ここには自分の居場所はない」。家でも会話が減り
沈み込んだ。学校に行く意味を見いだせず、2年でその学校をやめた。
3年で杜陵高校に編入した。発声や演劇を独学し、映画館をはしごした。卒
業後の進路は東京の声優養成塾「青二塾東京校」に決まった。
18歳の春。付き添ってくれた両親と新宿駅で別れる時、涙があふれ出た。
自分が通用するのかという不安。しかし「夢は結局、自分でつかむしかない」
と覚悟を決めた。都内の生活は、4畳ほどの寮の一室から始まった。
× × ×
桑島さんは「青二プロダクション」(東京都港区)のジュニアから準所属、
所属に進んだ。一緒に学んだ数十人の同期は今は一人もいない。
最初に桑島さんが脚光を浴びたのは20歳の時。オーディションで200人
の中から「ミスマル・ユリカ」役に抜てきされた。
役のほとんどはオーディションで決まる。演じるキャラクターと声質が合っ
ているかということ以外に、役柄の置かれた状況を正確に把握し、いかに感性
豊かに表現できるかが鍵となる。桑島さんの武器は集中力。登場人物と一体化
し、終わると泣き出すこともあるという。これまで演じたキャラクターは「ボ
ンバーマンビーダマン爆外伝」(テレビ朝日系)の主役「白ボン」など23に
上る。
桑島さんは自らの性格を「引っ込み思案で不器用」という。適当にかわすこ
とができず、人や壁にぶち当たる。「後がない」と自分を追い込み、持てる力
をすべて出し切る。その「不器用さ」が今の桑島さんを支えている。
【工藤哲】(毎日新聞)