夜空には、時々星が流れる。 しかし、湯船の片隅には、静かに雨が降り続ける。 たまに、掌で湯を掬って肩に掛けるような、ぱちゃり…ぱちゃり…と 言う音がするが、それだけ。 一人と一つ、それぞれに時を過ごす。 いい加減のぼせそうになり、向こうへ「お先に」と声をかけ、俺が先に 上がった事は2度ばかり。 だいたいは、上がろうかどうしようか迷い始めた頃、さっと強い驟雨が 吹き付ける。 思わず目を閉じ、開けた時には、雨はもうどこにも無い。 ただ一度、その驟雨が、目を少し細めるだけでいられた事があった。 瞬間、降りしきる雨の中を、うっすらとした灰色の、何となく女性を 思わせるような人影が、俺の視界を横切った。 何かを見たのは、後にも先にもそれきりだ。 不思議な事に、これに出会った次の日は、何故か必ず雨が降る。 見えない影の周りに降っている雨粒が、雨脚の強さの目安になる。 だから、俺はそれを“雨女”と呼んでいる。 今年はまだ、残念ながら出会えていない。