2006/08/20 (日) 22:47:46        [qwerty]
夜空には、時々星が流れる。 
しかし、湯船の片隅には、静かに雨が降り続ける。 
たまに、掌で湯を掬って肩に掛けるような、ぱちゃり…ぱちゃり…と 
言う音がするが、それだけ。 
一人と一つ、それぞれに時を過ごす。 
いい加減のぼせそうになり、向こうへ「お先に」と声をかけ、俺が先に 
上がった事は2度ばかり。 
だいたいは、上がろうかどうしようか迷い始めた頃、さっと強い驟雨が 
吹き付ける。 
思わず目を閉じ、開けた時には、雨はもうどこにも無い。 
ただ一度、その驟雨が、目を少し細めるだけでいられた事があった。 
瞬間、降りしきる雨の中を、うっすらとした灰色の、何となく女性を 
思わせるような人影が、俺の視界を横切った。 
何かを見たのは、後にも先にもそれきりだ。 

不思議な事に、これに出会った次の日は、何故か必ず雨が降る。 
見えない影の周りに降っている雨粒が、雨脚の強さの目安になる。 
だから、俺はそれを“雨女”と呼んでいる。 

今年はまだ、残念ながら出会えていない。