2006/11/25 (土) 14:32:10 ◆ ▼ ◇ [qwerty] さてアメリカの模倣が正しいかどうかということでは、もう一つ、大きな制度変更
として、厚生労働省と日本経団連が積極的に導入を目指している「ホワイトカラーエ
グゼンプション」(自律的労働制度)の問題があります。一定の年収を保障した上で、
時間外手当(残業代)の支払いを対象外とするこの制度は、提案者側からは「アメリ
カで既に導入されている」というのですが、この問題は裁判員制度どころではない大
変な問題を抱えていると思います。
というのは、政府ならびに日本経団連は、恐らくは半ば意図的にアメリカの実態を
歪曲して伝えているからです。その第一点は、アメリカでのこの制度は「管理職・基
幹事務職・専門職」への「残業手当の適用除外」を定義したものであって、「ホワイ
トカラー・エグゼンプション」とはいっても、全てのホワイトカラーが対象ではない
という点です。
とにかく管理職・基幹事務職・専門職の必要要件を満たしたケースだけに適用され
るのです。確かに金額で示されている規準だけを見ると、週給455ドルというのは
年収換算で23660ドル(約279万円)と低いのですが、この金額というのはあ
くまで一つの要素に過ぎません。その前に、厳しい規準に示された実態を満たしてい
なくてはならないのです。
例えば、アメリカの管理職の場合は「二人以上の部下に関する、採用権限を含む管
理監督」を行っているかどうかがポイントになります。また基幹事務職(総務、経理
など)では「非定型業務、自由裁量、自主的な判断」が主要な業務であるか、更に専
門職の場合ですと「明らかな専門的教育に裏付けられた専門性、もしくは独創的な技
能の発揮」という要件があります。
こうした要件について、例えば厚生労働省の労働政策審議会の議論などを見ていま
すと「アメリカでは金額で切っている」という前提で話が進んでいるようなのです
が、これは事実の半分も語っていません。管理職であるか、専門職であるかの「要
件」は非常に重視されていて、この要件を満たしていない場合に「お前はホワイトカ
ラーだから」ということで残業代の支払いをしないということになると、これは訴訟
などで大変なダメージを受けるようになっているのです。
第二点は、この「要件」を受けて「エグゼンプト」の労働市場というものが確立し
ているという点です。管理職・専門職で残業のつかない職種の場合は、業種職種によ
って異なりますが、全国的に見て5万ドル弱あたりが最低だと思います。勿論例外は
ありますが、管理職の場合でもいわゆるマネージャー(課長さん)がその最低クラス
になるのですが、基本的にはMBA(経営学修士)を取って(管理職にはMBAが要
求されることが多いのです)の初任給はやはり6万から7万(あるいはそれ以上)で
す。結果で判断される、だから労働は自己裁量という分、まあ納得のできる給与水準
が労働市場として存在しているのです。
第三は、アメリカの労働省のガイドラインにもあるように「専門的な教育を受け
た」という事実などの客観的な根拠が求められているということです。管理職にはM
BA、経理専門職にはCPA(公認会計士資格)、法務部門の管理職にはバー(司法
試験)などの公的な学位ないし資格が要求されますし、資格がない場合はそれ相応の
職歴など、そして専門技術者の場合はそうした教育を受けたという事実が要求されま
す。逆に言えば、履歴書にはなんの根拠もない人間に「権限を与えているから」とい
う理由で時間外手当を払わないのはダメということです。
第四は、「エグゼンプトでない」つまり日本流に言うと「一般職社員」の労働市場
が確立しているという点も重要です。この一般職は契約上「残業手当がつく」のです
が、その代わり「まずほとんど残業をしない」し「出張も命じない」ことになってい
ます。命令を受けて定型的業務はするが、その代わり家庭や地域活動との両立など
「9時から5時まで」の人間的な生活が保障されているのです。年収としては2万ド
ルから5万ドルぐらいでしょう。この人達は組合と法律によって厳しく保護されてお
り、本人の同意なく残業を強制することも不可能ですし、まして残業代を払わないと
いうことも不可能です。