肉の塊が転がってやがったので跨ぐついでで蹴っ飛ばした 「いてえ。何だってんだ」 という声がした見ると女のような物体だ 「悪いねお嬢さん。何分急いでいたもので、てっきりふいごか何かと間違えてしまった」 私は取り澄まして言った 彼女は目をまるくむいて、ふいごはひでえや、おたくは鉈で切ったみてえ顎じゃねえか、と言って笑った。 もう一発蹴る前に名前を聞いた 生天目仁美。ヒトミちゃんと呼んでくれ、そういって薄ら笑いを浮かべたので、もう蹴る気も殴る気もなくなってしまった。 私が名乗ると、再度聞き返してきた。面もひどいが耳も悪いのかと憐れんで言い聞かせると 「なんだ。猪口か。てっきり猪木の間違いかと思ったぜ」ときた。 なるほど悪いのは顔と口か。私は彼女の着ていたブラウスを破いて鼻をかんだ。彼女はショックで青くなって私をみた。 通じが良くなった私の美しい声で、望み通りヒトミちゃんと読んでやるためだ。