2005/05/22 (日) 11:21:11 ◆ ▼ ◇ [qwerty] お姉さまが手をさしのべて招くので、祐巳はその側に歩み寄った。
「私は祐巳の顔も、髪も、声も、指先も、すべて好きだけれど。でも、その外見が好きだからあなたを
好きになったわけではないわ。それを動かすあなたの心があるから、それが愛着になっているの」
祥子さまの手は、祐巳の頬をなで、髪に触れ、手を握り、そして最後に制服のタイの結び目で止まっ
た。
「私の、心」
「ええ。目に見えない部分よ。もし祐巳らしさというものがどこかにあるなら、たぶんそれにくっつい
ているのではなくて?」
「お姉さまは、それを見つけてくださいますか」
祐巳は答えて欲しかった。奥に隠れている大切なもの、それが祐巳を祐巳たるものにしている何かだ
としたら、それを迷わず見つけられる、と。
「あたりまえでしょう? 私はね、たとえ音のない真っ暗闇の世界にいても、そこに祐巳がいるならす
ぐにわかるわよ」
「え……」
「あと、……そうね。もし祐巳が、何かの伝染病に感染したとするでしょう? 担ぎ込まれたという病
院には、病気の影響でアフリカのライオンのように全身を剛毛でふさふさになった人ばかりが千人、ベ
ッドに横たわっていたとして、私なら間違いなく一発で祐巳を捜し当てることができるわ」