私は、犬については自信がある。 いつの日か、かならず喰いつかれるであろうという自信である。 私は、きっと噛まれるにちがいない。自信があるのである。 よくぞ、きょうまで喰いつかれもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。 諸君、犬は猛獣である。馬を斃し、たまさかには獅子と戦ってさえこれを征服するとかいうではないか。 さもありなんと私はひとり淋しく首肯しているのだ。 あの犬の、鋭い牙を見るがよい。ただものではない。 いまは、あのように街路で無心のふうを装い、とるに足らぬもののごとく みずから卑下して、芥箱を覗きまわったりなどしてみせているが、 もともと馬を斃すほどの猛獣である。 いつなんどき、怒り狂い、その本性を暴露するか、わかったものではない。 犬はかならず鎖に固くしばりつけておくべきである。少しの油断もあってはならぬ。