今から考えればとんでもないことなのだけれども、半年ほど英語塾でバイトをしていたことがあった。一般的な塾のバイトのよ うに、答案の採点だけならばまだよいのだが、その塾は英検やTOEFLを目指した個人カリキュラム制を念頭に置いており、 そのためにどうしても必要な英単語のオーラルチェックや個人個人が持ってくる質問などにも答えなければならなかった。大 抵の人間はぼくのいいかげんな性格を動物的な直感で悟ったらしくもっと賢く面倒見のいい人に聞いていたが、たまに厭味 なのかなんなのかぼくに問い掛けてくる中高生というのが存在して、その度にぼくは困惑して「然る後に」とか「それ故に」など という普段会話では決して使わないような接続詞を多々交えてなんとかお茶を濁していた。釈然とせぬ思いを抱きつつも帰っ てゆく刺客に胸なでおろしてちらりと横を見ると、明朗と怏々の問題に対処し、しかもきれいな発音をなにげなく見せている人 がいるのだった。そのひとが真田さんだった。