>  2008/01/17 (木) 20:48:46        [qwerty]
> なぁ(;´Д`)食い鉄という駅弁専門の鉄って居るかね?

あやしい童話シリーズ『マンホール』

人が食わぬものを食うという変わり者の男がいた。
木でも石でも何でも腹に収めてしまうというが、特に金属を好むという。
その変わり者に好事家が尋ねた。
「金属をどのように食べるのですか。歯が立ちませんでしょう」
「勿論です。なので、熱で溶かし、柔らかい、よい具合のところをいただきます」
「熱で。熱くはないですか」
「熱いには熱いですが、まあ、平気です。金属を炙り、ぐねぐねとしてきたら、捏ね、親指と人差し指で輪を作り、そこから餅のようにするすると飲むのです」
「はあ、するすると。美味いですか?」
「美味いです。中でも鉄が良い」
「鉄が」
「はい。鉄ならば何でも良いというわけではありません。区別があります。今までで最も良い味だったのはマンホールの蓋です」
「何故ですか」
「さあて。わかりません。当て推量ですが、人が踏む鉄は旨くなるのでしょう。ふわふわと程よい具合に人の重みが鉄を踏みしめ、良い舌触りとなるのです。万力でぐいぐいと圧しても、おそらくあの味は出ない」
「ふうむ。これは興味深い」
「味を見てみますか」
「私にも食えますか」
「さあて。物は試し」
そう言うと男は手近なマンホールの蓋をごとりとはずした。ごうごうと燃える大きなかまどに放り込み、待つことしばし。男はかまどから赤く焼けたマンホールの蓋を拾い上げた。
ぐうに、ぐうに、と手で押さえつけ、伸ばし、親指と人差し指の輪から、しゅるむ、しゅるむ、と鉄を細く引き出す。先端をぱくりとくわえ、そのままするすると勢いよく鉄を飲みだした。
「美味、美味。さあどうぞ」
変わり者の男は鉄の先端を差し出した。好事家も同じようにぱくりとくわえ、するすると飲む。
「飲めるものですな。塩っ辛くて美味い」
「でしょう」
「しかし何故塩の味が」
不思議に思った好事家が、ふと、先ほど蓋をはずしたマンホールの中をのぞいた。
すると、年の頃は70といったところか、刷毛を持ったみすぼらしい老婆がいた。
「おや、見つかった。何とぞご内密に」
「そこで何を」
「私はその変わり者の母でございます。息子は鉄を食うのですが、塩気が足らぬと思い、マンホールの蓋の裏に醤油を塗っておりました」
「醤油を。なんとお優しい」
「いいえ、いいえ。それでは失礼いたします」
そう言って老婆はマンホールの奥へと消えた。
おしまい。

参考:2008/01/17(木)20時47分17秒