>  2008/02/10 (日) 21:33:59        [qwerty]
深夜の住宅街。道は街灯も少なくひっそりとしている。最寄りの駅から帰宅途
      中の私は首筋のネクタイに息苦しさを感じ、やや緩めながら歩く。自宅まであ
      と200メートルと言った所だ。

      ふと気がつくと、私の前方5メートルほど先に見知らぬ婦女子が歩いている。
      後ろ姿はウェーブのかかった背中まである髪をゴムでまとめたもので、生地の
      薄そうな夏向きのロングスカートを自身の足の歩く動作ではためかせながらそ
      の婦女子は歩いていた。

      おや・・・?どうしたわけだろうか。先程からチラチラと何度もこちらを振り
      返り、様子をうかがっている。どうも挙動不審だ。明らかに私を見ている。
      はて、私の知り合いにあんな婦女子は居ただろうか?それとも私の美貌に心を
      とらわれてしまったのか?はたまた何か別の要素、例えば私のズボンのファス
      ナーが全開になってしまっているとか?私はすばやく自分のファスナーへ目を
      配り、それが閉じられている事を確認する。ではあの婦女子は一体何を気にし
      ているといういうのだろう?

      そう考え首をかしげようとしたた矢先、その婦女子は一瞬私を見ると血相を変
      えて一目散に前方へ走り出した。私はその時の表情を見逃さなかった。明らか
      に恐怖と動揺の表情をしていた。私はその時同時に悟った。なぜ私の方を見て
      いたのかを。婦女子への疑念は怒りへと変換された。

      誰もお前なんか襲わねえよ!!!! このクソアマがァァツ!!!!11122

      話には何度も聞いていたが実際やられると相当腹が立つ。余りにも腹が立った
      ので私も走り出す。当然だがあのクソアマを何かしようとかは思わない。全力
      で走って追い抜いてやる。その行為にどんな意味があるかは私自身でもわから
      ない。私が全力で走るとクソアマとの距離はみるみる縮んでいく。クソアマは
      足音が近づいてくるのを聞き取ったのか、更に力を込めて走ろうとする。だが、
      こう見えても学生時代は陸上部でならした脚だ。クソアマの脚力など及ぶべく
      もない。クソアマとの距離は更に縮まっていく。彼我の差が2メートルくらい
      でクソアマは走りながら一度こちらを振り向き、私の姿を視認すると再び前方
      を向き、
      「ギャアアアアァァアァァ!!!」
      と雄叫びをあげる。深夜に住宅街での騒音は迷惑だというのに。私はそんな雄
      叫びに臆する事なく、クソアマの右側を走りぬける。抜きさる瞬間に私は横目
      でクソアマに表情を、見た。
      「アアウゥゥゥアウアウアウゥゥ」
      クソアマは正面を向いて走るが、顔面は強ばり口をパクパクさせながら意味不
      明の音を漏らしていた。心の中で「愚か者め」と一言呟き、私はそのまま更に
      加速してあっという間に走り去る。後方からはクソアマは発する「アゥアゥ」
      という音を聞こえてくる。
      クソアマとの距離を大きく引き離した私は2つ目の交差点を左へ曲がり、クソ
      アマの視界から完全に消え去る。クソアマはさぞ実力の差を思い知ったことだ
      ろう。

      今回は私の圧勝だった。しかし私の胸中には一抹の虚しい風が吹いていた。そ
      う、勝利とは常に空しいものなのだ。

参考:2008/02/10(日)21時30分47秒