2008/04/27 (日) 18:10:38        [qwerty]
ググント「だったら、私も死んじゃえ!」 
アトル「姫さま!何処へ行かれるのか!姫さまっ!」 
―――危険な、目だった。 
アトルの直感が告げていた。長く仕えてきた彼だからこそ、己が主君の危うさが分かる。 
―――演技、だったのか。 
病が幾分落ち着き、立ち居振る舞いもまた矍鑠したものに戻りつつあった。 
だから…安心していたのだ。 
迂闊。 
アトル「ググントさまーっ!」 

予想だにしなかった事態。その衝撃が一瞬、アトルの歩みを止めていた。 
気がつけばググントは視界から消えていた。 
(莫迦、何年あの方の傍にいた、盆暗がッ) 
チッと舌打ちをして後を追う。だがすぐに遮られた。 
人影。一瞬、黒い壁と見紛うたマントの下から、ぞくり、と鋭気が放射される。 
アトルは正気を失った。 
―――何故、生きてる!? 
彼にとって、幾度もの悪夢の主演をつとめた男が、その罪と共に火口へ消えた狩人が―― 

オジリ「痩せたか?夜天の御者」 
アトル「糞でも喰らえオジリッ!!」 

アトルは大喝した。 


(はぁっ、はぁっ、はぁっ――) 
今や世界の全てがググントの敵だった。 
幼い肢体に不釣合いなドレスの、裾を擦る間もあらばこそ。 
気がつけば布地を裂いていた。じゃまっけな靴も脱げている。 
それでも、からみつく。病んだ身体に外気は重い。 
耐えられない。 
私を、そうまでして消したいのか。 
炎に抱かれた街、ゲイツォ草、自警団の男たちの笑顔、いばらの門―― 
それは思い出。今や死を待つ少女にとってのすべて。 
悪くない。 
この輪舞の中で死ねるなら―― 

プンギ・プンギ「では僭越ながら、この私めが手引きをば」 
ググント「―――!」 

忘れもしないその顔。フードの奥で「彼女」の単眼がぎらり、と閃く。 

プンギ・プンギ「でも残念、今日は挨拶だけ。もっともオジリの方は知らないけど」 
ググント「…新月の夜に“夜天”を敵に回す愚、貴方ならご存知かと思ったけど」 

虚勢だった。何故なら、今のアトルは―― 
思考は断絶された。プンギ・プンギが迫る。示威の為の連撃。 
(こいつァ、乱暴だ)