2000/05/10 (水) 23:59:07      [mirai]
なぜ、仮想未来の宇宙世紀0079の戦い、つまり「一年戦争」においてモビ
     ルスーツが主兵器となるにいたったのか、読者諸兄はご存じであろうか?
     「テクノロジーの進歩によって、ロボット技術が洗練され、兵器として信頼す
     るに足るポテンシャルを発揮できるようになった」ことでもあるが、しかし、
     現時点における兵器の進歩は、秘匿(ステルス)性とレーザー誘導による
     精密攻撃の二点に向けて収斂しており、この傾向は今後も当分続くことは
     疑いない以上、単なるテクノロジーの進歩をその原因と見ることは難しい。

     それどころか、モビルスーツはその形態からも明らかなように、人間機能を
     拡大発展していったものにすぎず、戦場における運用も、人間が生身で戦
     っていた時代のそれと大きく食い違うところはない。むしろ、第二次大戦が
     戦車や航空攻撃の支援を受けつつ戦われたことを思えば、戦闘技術の退
     行と言っても過言ではなかろう。

     これはすべて、「ミノフスキー粒子」の発見によるところが大きく、アインシュ
     タイン物理学を根底から覆す、この粒子の存在なくして、ガンダム世界を語
     ることは不可能である。一般に流布する説によれば、ミノフスキー粒子とは
     「静止質量を持たず、+か-の電荷を得ており、不可視のフィールドを形成
     して、ある範囲の電磁波(マイクロ波から超長波)の伝達を阻害するという
     ものであり、これによって、旧来の、つまり連歩軍の軍事システムは完全
     にその力を発揮できなくなってしまったのである。モビルスーツのパワージ
     ェネレーターとして原子炉の小型化に成功したことや、航空力学を全く無視
     したホワイトベースの大気圏内飛行を可能にした事実まで、すべてミノフス
     キー粒子のおかげだというのは、もはや物理学の基礎すら身につけておら
     ぬ文学青年の小生には、とうてい理解の圏外であるが、いずれにせよ、軍
     事運用の「指令・統制・連絡・情報(C3I:シーキューブドアイ)」を貫く高度な
     通信システムが、ほぼ沈黙させられた以上、敵を早く発見し、それを攻撃
     するという、言葉にすればシンプルな原則は、個々人の力量に依存せざる
     を得なくなるのは当然で、結果として、行き場を失った軍事テクノロジー
     は、人間の機能を強化拡大したモビルスーツへとそそがれることになるの
     である。その意味で、小生は、原作中では単なる「やられメカ」にすぎず、
     ザコよろしく扱われてきた「MS-06F ZAKU 2」を極めて高く評価しているの
     である。

     昭和40年代後半に生を受けた男児の常として、小生もまたガンダムの熱
     烈なファンであり、劇中に語られた様々な言葉は、今もなお胸中深く刻み
     込まれている(たとえば「連邦のモビルスーツは化け物か!?」「ザクとは
     違うのだよ、ザクとはっ!」「うわぁ、火、火が・・・母さーん!!」)。自然、
     ガンダムに刃向かうジオンの悪党どもは憎しみの対象にすぎず、アッザム
     に乗ったマ・クベが逃げてしまったときなどは悔しくて夜も眠れず、壺を恨み
     にギャンで戦死したときなどは、うれしくて喝采をあげたものだった。ところ
     が、齢長ずるにつれ、軍事的知識を蓄積し、その理解を一年戦争に当ては
     めてゆく過程で、小生はガンダムが抱える大きな矛盾に向かい合わざるを
     得なかったのである。

     モビルスーツ戦闘の粗型ともいえる近現代の歩兵戦闘においても、先に挙
     げた秘匿性は重要な要素である。19世紀後半の帝国主義国家間の軍拡
     競争の結果、小銃・機関銃の命中精度は飛躍的に向上しており、その変
     化の前に、旧来の戦闘思想は大きな変革を迫られた。それまでの歩兵戦
     闘といえば、部隊ごとにきらびやかな軍服を身にまとい、整然と隊列を組ん
     で敵兵とぶつかり合うというものであった。たとえばナポレオン関係の戦争
     映画を見ればそのことは感動的に描写されているし、そこまでさかのぼら
     ずとも、南北戦争の時代まで、こうした戦闘習慣は当然のものとして考えら
     れていた。それどころか、日露戦争にまでもこの軍服思想は引きずられて
     いる。無論、帝国主義国家間の戦争には、まだ騎士道の精神が残されて
     おり、その残光が最後の輝きを示した実例ともとれるのだが、一方で、ボー
     ア戦争ではイギリス兵のきらびやか軍服が、野に埋伏するゲリラ兵の格好
     の標的となったことを教訓として、アフリカのサバンナに適応するため、カー
     キ色の軍服が初めて採用されている。第二次大戦においては、ナチスの
     印象によってか、装飾美をよろしくしたような時代的逆行の印象を受けると
     ころだが、実際の戦闘服はきわめて機能的にデザインされており、特に、
     迷彩服に身を包み、森林に埋伏して正確な銃撃を加えるドイツの小部隊戦
     術は、連合軍を最後まで悩ませ続けていた。

     ガンダム時代のモビルスーツ戦闘は、これに類似していると考えてよい。
     違いがあるとすれば、モビルスーツを可能とするテクノロジーがあるかない
     かにすぎないのである。ここで、もう一度、戦場の様相をのべておきたい。
     一年戦争では、戦車や航空機といった、我々が信じるところのハイテク兵
     器が一挙に役立たずの代物となってしまった。我々が常識的にとらえる兵
     器というのは、ある特定の機能を拡大進化していったものである。たとえば
     戦車は「重装甲、快速度を持って敵陣を突破」するための兵器であり、突
     破後の占領地確保に当たるのは、あくまでも歩兵であった。逆に言えば、
     歩兵の随伴なき戦車の攻撃は、その衝突力は別として、占領地の恒久的
     確保にはつながりにくく、きわめて特化された機能しか持ち得ぬ兵器だと
     いえる。航空機も同じ事で、これは、航空戦闘に特化した兵器である以
     上、それのみを持って占領維持をすることは全く不可能である。こうした特
     化兵器を有機的にまとめ上げ、巨大な戦闘機械とすることに成功したの
     が、今我々が考えるところの軍隊であり、このバラバラの機能をまとめ上げ
     るために不可欠な要素こそが、"C3I:Command,Control,Communivation
     & Information"を支える高度な通信システムなのである。ところが、ミノフ
     スキー粒子の発見により、・・・(以下略)