第七十二話 スーツを着た男 その二 こんな話を聞いたことがある。 夜中、電車の駅を降りて、自宅に帰るためにいつも通る坂道にさしかかった。 人気のない寂しい坂道をてくてく上っていると、坂の上の方からばたばたばたばた と変な音がする。よく見ると、ひとりの人間がまるまって、ばたばたと坂道を転が ってくるではないか。 「あれ、どうしたのだろう。人がまるまって坂を転がるなんて……」 その人は、足をかかえ込むようにして見事に身体をまるく折りたたみ、前転を何度 もくり返しているような感じで、どこにも引っかかることなく、坂道をきれいに転 がってくる。 そして、見ている人の横をごろごろと転がりながら通過していったのである。 「あれっ」 振り返ると、もうそこにはなにもなかった。 それは、確かにスーツを着た男性であったという。 スーツマンヒデキカコイイヽ(´ー`)ノ