推敲前 2000/05/25 (木) 19:45:32      [mirai]
その日、僕は酷く疲れていた。
まだ帰宅ラッシュには早い電車に乗り込み、
座席に座ると静かに目を閉じた。

ふと、身体に違和感を感じ、目を開けた。
もうすぐ降りる駅だ。窓の外の風景で分かった。
そして、違和感を感じた右腕の方を見た。すぐに僕は自分の目を疑った。
そこには眠っている女の子がいた。僕の右腕をしっかりと抱えて眠る女の子が。
周りの乗客は見て見ぬ振りだ。自分の顔が紅潮していくのが分かる。
何だ?どういう事だ?何で僕の腕を?それより、この子は誰?
考えても分かるはずもなく。とりあえず、この子を起こす事にした。
「あの、ちょっと?」
女の子の肩を揺すりながら声をかけた。
すぐに女の子は目を開けた。ちょっとつり上がった、大きな目がこちらを見た。
彼女を動物に例えろと言われたら百人が百人「ネコ」と言うだろう、魅力的な瞳。
同い年くらいだろうか、それともまだ高校生くらいだろうか。
思わず色々考えてしまった。
「あ、ごめんなさい」
彼女は僕に謝ると、右腕を解放してくれた。
いや、してくれるはずだった。
しかし、彼女は予想外の行動に出た。
僕の右腕を抱えたまま立ち上がると、駅に到着して開いた電車のドアの方へ向かった。
当然、僕も同じ行動を取らざるを得なかった。
為す術がないとはこういう事だろうか。何がなんだか分からなかった。
ただ、彼女のネコの目が、「ついてきて」と訴えてる事だけは確かだった。