2000/06/20 (火) 02:55:36      [mirai]
夢

 夢を見ていた

 白い雪に覆われる冬の…

 街中に桜の舞う春の…

 静かな夏の…

 目の覚めるような紅葉に囲まれた秋の…

 どの夢にも楽しそうに笑う私がいた
 そんな私を見て微笑む裕一さんがいた

 夢は私の「夢」だった

 元気な私がいて
 そばに裕一さんがいればそれで良かった

 …気がつくとあたりは夕日に照らされ赤く染まっていた
 噴水の水さえもまるでルビーのように輝いている

 噴水の向こうには裕一さんがいた
 私は走り出した、裕一さんめがけて
 しかしいっこうにその距離は縮まらない
 それどころかどんどん離れていってしまう
 (裕一さん待ってください。)
 そう叫ぶが声にならない
 (私を一人にしないで…一緒にいてください!)
 それも虚空に吸い込まれてしまう
 (お願い、裕一さん待って!!)


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 「裕一さん待って!!」
 目が覚めていた
 …ここは何処だろう…夕日に染まっているが
 見覚えのある白い天井、白い壁、そして独特の消毒液の匂い
 ああ、夢だったんだと現実を突きつけられる瞬間

 「あらどうしたの、栞?」
 ベッドの横で本を読んでいたお姉ちゃんがその本を閉じながら私に問う
 「なんでもないよ、お姉ちゃん…」
 「そう…その割には、なんでもないって顔してないわね。」
 「そうかな…」
 あの日から学校休んで、私の面倒を見てくれているお姉ちゃんに
 心配をかけまいと答えたがやはり無駄だったようだ
 「だって、涙を流しながら「裕一さん待って!!」なんて言ったら
  誰だって気がつくと思うわよ。」
 (えっ、私泣いてたんだ。)
 そっと目に手をやると確かに涙が流れていた
 「そんなに愛しの相沢君に会いたいわけ?」
 そうはっきり言われるとさすがに照れてしまう。
 「うぅ~そんなこと言うお姉ちゃんなんて嫌いですぅ~」
 「あはは、ごめんごめん。でも相沢君に会うためにはまず体を治さないとね。
  甘えるのはそれからで良いんだから。」
 「…甘えるのはともかく、ちゃんと元気になって裕一さんに
  お弁当作ってあげるんだから、大丈夫です。」

 そうは言ってみても、それがどんなに難しいことか私も、お姉ちゃんも分かっていた。
 私の体は、重りをくくりつけたかのように重くなって、まるで自分の体じゃないみたいで、
 もう普通に歩くことさえ困難な状態だったし、
 一時たりとも点滴をはずせない状態になっていたのだから…

 「で、何だったの?」
 さっきの夢のことを聞いているのだと気づくのに少し時間がかかってしまった
 「ええとね…
  …ということなの。」
 と、かいつまんで話してみる。
 「…そう、夢の中まで栞を悲しませるとは相沢君もひどいことするわね。
  一回懲らしめてやらないといけないみたいね。」
 キュッと握り拳を作ってみせる
 「えぇ~いいよ、お姉ちゃん。私が勝手に見た夢なんだし…」
 「そう?じゃあ、栞が寂しがってるって言ってこようかしら。」
 「それもやめてぇ~、それに…」
 「それに、何?」
 「ううん、なんでもないよ。」
 「そう、それじゃそろそろ面会時間も終わるから、あたしは帰るわね。」
 「うん、じゃあまた明日ね。」
 お姉ちゃんは悲しそうな顔をするけど、すぐにいつもの笑顔で返してくれる
 「じゃあ、また明日ね。いい、ちゃんとご飯食べてゆっくり寝るのよ。」
 「は~い。」
 そしてゆっくりと病室のドアの閉まる音がした

 また明日…この言葉の重みを知っていながら使う私は罪深いのかもしれない
 (それに…)
 あの夢は、裕一さんとの別れを表しているものに思えて仕方なかった…