2000/07/13 (木) 00:28:40      [mirai]
 とある森に一人の木こりがいた。ある日、池のほとりで斧で木を切って
いた。斧を大きく振りかぶった拍子に手元が狂い、斧を池の中に投げ入れ
てしまった。斧は木こりにとっては大事な商売道具でこれが無いと木を切
ることとが出来ない。木こりは困ってしまい途方に暮れて池を眺めている
と、池の中から光とともに神々しく輝く黄金の斧を手にした妖精が現れて
木こりに尋ねた。
「おまえの落とした斧は、この金の斧か?」
 木こりが落とした斧は実際は鉄で出来た斧だったが、木こりは妖精の持
っている黄金の斧を見ると、それが欲しくてたまらなくなった。そこで木
こりは、こう答えた。
「私が落とした斧は、その黄金の斧です」
 すると今までにこやかな顔でいた妖精は、突然、怒りの形相となり「お
まえは、目の前の黄金に目がくらんで嘘をついたな」と言うなり、持って
いた黄金の斧を振りかざし、木こりの頭に打ち下ろした。

 またある日、別の森で、別の木こりが池のほとりで木に斧を振るってい
た。木こりが力を思い切り入れてスイングした瞬間、握っていた斧の手元
が滑り、気づいたら斧は池の中へチャポンという音と共に消えてしまっ
た。斧が無くては木を切り倒せないと木こりが困っていると、池の中から
輝く黄金の斧を持った妖精が登場して、木こりに尋ねる。
「おまえの落とした斧は、この金の斧か?」
 木こりは答える。「いいや、違う。俺の落とした斧ではない」
 すると妖精は、白銀に輝く斧を取り出し、木こりに尋ねる。
「では、この銀の斧か?」
 木こりは怪訝な顔をして言う。
「いいや、それも俺の落とした斧ではない」
 次に妖精は、表面に錆の浮いた古びた鉄の斧を手に取り、木こりに問う
た。
「では、この鉄の斧か?」
 それを見て木こりは「そうだ。俺の落とした斧は、その古びた鉄の斧
だ」と言い、妖精から鉄の斧を受け取る。と、木こりは斧を手に持つやい
なや大きく振りかぶると、池の中へ入っていこうとする妖精の頭にめがけ
て渾身の力で斧を叩きつけた。
 妖精の頭蓋骨はぱっくり割れ、大きな空洞のような傷から流れ出る血が
池の水を赤い色に染めていく。あっという間に息絶えた妖精はゆっくりと
ぶくぶく泡を立てて池の底へ沈んでいった。
 その様子を見て木こりは一言だけ言った。

「俺を試すな」