2000/07/14 (金) 05:22:12 ▼ ◇ [mirai] 帰り道。
「……お兄ちゃんはやりたいことってないの?」
唐突に加奈が聞いてきた。
「やりたいことねえ……ま、大学で探そうと思ってるけど」
自分の人生というものについて考える、いい機会なのかも知れない。今までは、自分のことに気を使う精神的ゆとりがなかったように思えるから。
「……わたしのせい?」
「え?」
「わたしがいるから、お兄ちゃん、何もできないの?」
「どうしたんだよ、突然」
「だって、お兄ちゃんの友達、みんな自分のやりたいこと持ってて……なんか楽しそうで……もしお兄ちゃんの人生をわたしが台無しにしてるんだったら……わたし……」
「馬鹿! そんなことないさ。加奈のせいなんかじゃない! 俺はこれっぽっちも負担なんて感じてないんだ。俺たち兄妹じゃないか。同じ血が流れた兄妹だよ。助け合って当たり前だ」
「……」
加奈はそれっきり押し黙ってしまった。
二人は歩く。卒業式の後、両親と加奈と行動する予定だったから、自転車は持ってきていない。
「わたしね……強くなりたい」
ぽそっとつぶやいた。
加奈は今まで見せたことのないような、焦燥と困惑の混じった顔を俺に向けた。
「……二人で制服で帰りたかったな」
「……そうだな」 加奈が俺の腕に自分のそれを絡めた。
どきっと、少し心臓が跳ねた。
歩き出す。
俺が普通に歩くと、加奈はすぐに足取りを崩す。だからこちらは、歩調を普段の半分ほどに抑えなければならない。
歩くたびに、加奈の胸が腕に感じられた。ちょっと前までは華奢なだけだった加奈の胸も、今ではすっかり柔らかい膨らみへと発達しつつある。
加奈を見る。
どんどん女らしくなっていく加奈。本当に、一日ごとに劇的に成長している。肉体的にも、精神的にも。
……そう思っていたんだ。