2000/07/20 (木) 22:03:04      [mirai]
『古事記』は、もともと天武天皇が、宮中の祭儀を司る猿女君の稗田阿礼に対し
て、「各家に伝わる諸伝には、偽りや誤りが多いと聞く。これを正し、真実の歴史
を後の世に伝えよう」と言った事から制作が始まったことが書かれています。これ
は逆に言うならば、各家に伝わる神話を、天皇家にマッチしたものに改竄しようと
いう意味にもとることができます。真偽はともかくとして、この『古事記』を編纂
したことによって、事実上、天皇家は現代に至るまで、日本の祭儀的支配者であり
つづけたわけです。

 『古事記』も『日本書紀』も、大筋には変わりありませんが、細かい部分で微妙
な違いや、一方にしか出てこない神などあります。『日本書紀』は「一書に曰く」
として、ひとつの説話の諸説をいくつかあげているので、両書を比較して読んでい
くと、より深く知ることができます。
 こうした『古事記』や『日本書紀』というものは、天皇家によって編纂された、
いわば国書です。当然のように、天皇家によって編纂されていない神話・歴史書と
いうものも存在しており、そういった文書が江戸末期から昭和初期にかけて、次々
に発表されました。ただし、多くは偽書と診断されています。ここでは、これらが
偽書であるかどうかは問題としません。これは、ミルトンの『失楽園』が創作であ
るとわかっていながら、堕天使に関する一級資料となっていることと、同じ理由に
よる判断です。これらの文書をまとめて、ここでは「古史古伝」と呼ぶことにしま
す。代表的なものとして、『竹内文書』、『九鬼文書』、『富士宮下文書』、『上
記』、『秀真伝・三笠紀』、『東日流外三郡誌』、『物部文書』、『安部文書』、
『カタカムナ文書』、『天書』、『先代旧事本紀大成経』などがあげられます。
 大筋は『古事記』と同じものも多いのですが、よりダイナミックに語られている
事が特徴です。特に『竹内文書』は、古代の天皇が全世界を統治していたという、
グローバルな古代史であることは有名です。また、『東日流外三郡誌』には、正史
では扱われない、東北地方の古代文化を取り上げているなど、地方をクローズアッ
プした面もあります。
 その他、日本各地に建てられた神社にも、それぞれ奉っている神格があり、社伝
があります。神社が国に統括されたのは、平安時代に律令国家体制が整ってから
で、『延喜式』の中の『神名帳』の中に、各地の神社が記されました。現在ではこ
の『神名帳』に記された神社は、「式内社」と呼ばれ、格の高い神社だとされてい
ます。ただ、千年前のものなので、現在では確定できない神社も多いそうです。現
在の神社が国によって統括されたのは、明治時代になってからのことです。それま
での間、日本の神道は仏教勢力におされ、日本の神々は仏が化身したものだとい
う、「本地垂迹説」が主流になっていました。明治政府は神武天皇時代の祭政一致
を目指し、神仏分離を宣言し、国家神道を築くべく、各神社を伊勢神宮を中心とし
て統括したわけです。ただ、この時、各地の神社が申告した、奉る神格が、必ずし
も古来より伝わっていた神格とは限らないという話しもあったりします。
 このようなものが、日本の神話を今に伝えています。