投稿者:おふう 2000/08/27 (日) 23:34:33 ▼ ◇ [mirai]平日の駅前は、まだまだ人通りもまばらだった。
【祐一】「それで、今日はどうする?」
【栞】「どうしましょうか?」
【祐一】「この前は商店街に行ったからな。今日は栞の知ってる場所にしようか?」
【栞】「分かりました。ご案内します」
【祐一】「どんなところなんだ?」
【栞】「…そうですねぇ」
【栞】「見てのお楽しみ、と言っておきます」
無邪気に笑顔を覗かせて、駅前の歩道を歩く。
人の出入りが多いためかすっかり雪の溶けた駅前は、まだ朝の静けさだった。
栞と並んで雪の道を歩いていると、どこか覚えのある場所に出た。
【栞】「…祐一さん、この場所を覚えていますか?」
【祐一】「確か、あゆが食い逃げして逃げ込んだ場所だな」
【栞】「そうなんですか?」
笑いをこらえるような表情で問い返す。
【祐一】「それで、栞と出会ったんだよな?」
【栞】「はい」
穏やかに頷く。
【栞】「祐一さん、その時のこと覚えていますか?」
【祐一】「ある程度は覚えてるぞ」
あゆと一緒に逃げてきたこの場所…。
小さな悲鳴が聞こえて、そして雪の上に座り込む少女と出会った…。
紙袋の中身を広げて、雪と同じくらい白い肌のその少女は、戸惑ったように俺たちを見ていた…。
【栞】「…運命」
栞がぽつりと呟く。
【栞】「確か、あゆさんがそう言っていましたよね」
【祐一】「そうだったか? そこまでは覚えてないけど」
【栞】「私は全部覚えていますよ。その日のこと、全部」
【栞】「私にとって、本当に大切な思い出ですから」
【祐一】「思い出って言うほど昔のことでもないだろ?」
【栞】「祐一さん…」
【栞】「思い出に時間は関係ないです」
【栞】「その人にとって、その一瞬がどれだけ大切だったか…」
【栞】「どれだけ意味のあることだったのか…」
【栞】「それだけだと思います」
【祐一】「…そんなに貴重な時間だったか?」
思い返しても、いつものようにあゆをからかっていたという記憶しかない。
【栞】「だって、あの時の祐一さんとあゆさん、面白かったですから」
【祐一】「そうか?」
【栞】「私、あのあと家に帰ってずっと笑っていました」
【祐一】「あゆはともかく、俺は普通だぞ」
【栞】「そうですね」
楽しそうに頷いて、そして再び歩き出す。
【栞】「行きましょう、祐一さん。目的の場所はまだ先ですから」
それから10分ほど歩くと、林道が大きく開けた場所に出た。
【栞】「ここです」
くるっと振り返って、満面の笑顔で大きく手を広げる。
その後ろで、さらさらと水の流れる音が規則的に聞こえていた。
【祐一】「…こんな場所があったのか」
そこは、雪を実らせた木々に囲まれた、大きな公園だった。
【栞】「私のお気に入りの場所です」
【栞】「しかも、誰もいないですー」
確かに、俺たち以外は全く人の姿がなかった。
【祐一】「よく考えると、平日だもんな」
【栞】「良かったですね。貸し切りですよ」
【祐一】「野球だってできるな」
【栞】「雪合戦だってできますね」
【祐一】「……」
【栞】「雪合戦」
【祐一】「何もこんな所に来てまで雪合戦しなくても…」
【栞】「ダメですか?」
雪合戦につき合う
他のことをする
【祐一】「勿論ダメじゃないぞ」
半分は開き直っていた。
【祐一】「今日は両腕がちぎれ飛ぶまで雪合戦だ」
【栞】「わー、嬉しいですー」
文字通り手放しで喜んでいる栞を見て、ため息をつく。
【栞】「私、雪玉作りますね」
【祐一】「……」
せっせと雪をかき集めている栞の嬉しそうな表情。
【祐一】「俺も作る」
【栞】「わー、それ私が集めた雪ですー」
そんな少女を見ていると、雪合戦もいいかなと思う。
【祐一】「早いもの勝ちだ」
【栞】「わー、それ私が作った雪玉ですよー」
結局、腕はちぎれなかったものの、右手があがらなくなるまでは雪合戦を楽しんだ。
【祐一】「もっと他の遊びにしないか?」
【栞】「例えば、どんなのですか?」
【祐一】「ボブスレーとか」
【栞】「無理です」
【